
全国の学校現場では、深刻な教員不足と長時間労働が課題となっています。一人一台のパソコンが配られ「情報」が必修化される一方、現場にはいまだ紙とFAXの文化が根強く残っています。
この課題にIT企業の立場から挑むのが株式会社グッドワークスです。今回は同社代表取締役の須合氏と、教育事業を率いる取締役の工藤氏に、その取り組みを伺いました。
全世代に向けた教育研修事業「東京DXカレッジ」
――まず、御社が展開されている「東京DXカレッジ」と「Tech Nexus」について、改めてご紹介いただけますか。
須合氏「東京DXカレッジは、IT講師が“人に対して”教えていく教育研修事業です。一つは、未経験から、あるいは異業種からエンジニアを目指す中途・新卒の方に向けた研修。もう一つが学校向けで、生徒さんには生成AIを使ったプログラミングを、先生には情報の授業づくりや、AIをはじめとしたDXツールの使い方までをお教えしています。さらに、財務省や航空自衛隊といった官公庁向けの研修も、入札を通じて請け負っています。いわば、全世代に向けた教育研修事業です」
――対象が幅広いなかで、特に教育分野に力を入れているのには理由があるのでしょうか。
須合氏「学校に特化しているのは、取締役の工藤が元々学校業界に20年以上携わってきたからです。中学校の個別指導塾で英語講師を務め、その後は教育サービスの開発から事業部長まで経験してきました。その知見を生かして、教育事業でより価値を高められるサービスをつくっていこうと。だからこそ東京DXカレッジは、法人向けだけでなく、学校向けから官公庁向けまで幅広く手がけているんです」

学習指導要領が変える教育現場と、深刻化する長時間労働
――工藤さんご自身は、どのような課題意識から教育×ITの事業に取り組まれているのでしょうか。
工藤氏「日本の教育は『学習指導要領』で動いていて、これがおよそ10年に一度のペースで改定されます。20〜30年ほど前のテーマは英語学習でした。その後は非認知能力やコミュニケーション能力といった“目に見えない力”が重視され、次に来たのが教育DX。一人一台パソコンを持ち、CBT(コンピュータを使った試験)を導入する流れです。そして、いよいよホットになっているのが、情報一・情報二、プログラミング教育なんです」
――テーマが、いよいよ情報やプログラミングへと移ってきているのですね。教育とITの両方の知見が問われそうですが、工藤さんはそこにどう向き合おうと考えたのでしょうか。
工藤氏「ずっと教育業界にいた私からすると、テーマがプログラミングや情報になるのなら、これはもうIT会社の中から教育の課題を解決するしかないと考えました。蓋を開けてみれば課題はどんどん顕在化していて、長時間労働も感じますが、根底にあるのは、いま学習指導要領のテーマになっているものを、きちんと現場に届けられていないことだと思っています」
――もしIT企業が入らなければ、教育現場はどうなってしまうのでしょうか。
工藤氏「いまだに紙とFAXの文化なんです。テストに赤で丸をつけて、回覧で回して……という世界。私たちの想像以上に、学校現場は遅れています。これがまさに長時間労働に直結していて、無駄な作業をずっと続けなければならない。実際、教員は定員割れを起こしていて、教える人が減れば、教育そのものも薄くなってしまいます」
――2030年には、新しい学習指導要領も始まりますね。
工藤氏「スケジュールはもう決まっていて、2030年のスタートに向けて逆算で動かなければなりません。今は高校の科目である情報一・情報二が、中学にも入ろうとしています。このままでは、中学の先生まで大量に辞めてしまう時代になりかねない。だからこそ、わかりやすく教えられる研修や、マニュアルづくりのニーズは必ずあると考えています」

最もニーズが高いのは「教員向け研修」──パソコン教室から始まる現場
――研修や生徒向け講座、ICT支援員の派遣など幅広く展開されるなかで、最もニーズが強いのはどこですか。
工藤氏「これはもう決まっていて、教員向け研修です。生成AIによる校務効率化や、教育利用に向けた研修ですね。学校現場では、私たちが日常的に使っているChatGPTやGeminiが、本当にわからない。まるでパソコン教室のように、『ここをクリックして、こうやるんですよ』というところから始めるんです」
――受講される先生方の年代は幅広いのでしょうか。
工藤氏「20代から60代までいらっしゃいます。年齢に関係なく、使い方がわからないという状態です。定年間近の先生が眼鏡を外して、『なんでこんな風に出てくるの?』とおっしゃることもあります。AIの使い方の前に、パソコンの使い方やデータ化のところに、いまニーズがあるんです」
――研修はパッケージで提供されているのですか。
工藤氏「いえ、カスタマイズしかしていません。たとえば、茨城県の家庭科の先生が集まる研修会では、ミシンについての学習指導要領に沿った指導案づくりを一緒に行いました。財務省のデータ活用研修なら、年末調整や確定申告など全員が関わるテーマでカスタマイズします。継続実施が原則なので、前回からの変化を皆さんに伺い、その内容をもとに研修をアップデートしていく。これが私たちの伴走支援の特徴です」
――研修を受けた先生方の反応はいかがですか。
工藤氏「皆さん、本当にびっくりされます。普段パソコンを持たされてはいても、使っていないんです。私たちが日常的に使っているものとは、それくらいかけ離れているのが学校現場なんです」
専門学校から中高一貫校まで──東京DXカレッジが選ばれる理由
――研修事業である東京DXカレッジには、すでに多くの導入校から反応が届いているそうですね。
工藤氏「そうなんです。研修を実施したあとに『どうだったか』という声は、東京DXカレッジにたくさん集まっています。研修自体は単発でも、終わったあとの成果や手応えをきちんと振り返れる。そこが教育機関に評価いただいているところだと思います」
実際に導入された学校からも、検討のきっかけや授業後の感想が寄せられています。専門学校と中高一貫校、それぞれの声をご紹介します。
2025年度のITの授業に登壇してくれる講師をさがしていたところ、グッドワークスさんから紹介がありました。様々なITスキル経験の講師の方々の紹介のみならず、卒業生の就職先の紹介やグッドワークスの正社員としてのお誘いもしていただきました。
さいたまIT・WEB専門学校 様(東京DXカレッジを検討したきっかけ)
生成AIへの関心の高さから、授業でも何かできないかと情報収集していた時に、グッドワークスさんの研修を知りました。IT会社の教育部門であれば間違いないだろうと思い、AIチャットボット制作を実施していただきました。生徒には非常に好評で、授業後のアンケートでも「生成AIをもっと学びたい」との声が大多数でした。
日本大学豊山女子高等学校・中学校 様(東京DXカレッジを検討したきっかけ)
非ITエンジニアでもシステムを作れる時代──Claude Codeが示す可能性
――AIの進化で、現場の景色も大きく変わりそうですね。
須合氏「Claude Codeのようなものが出てきた段階で、私のような非ITエンジニアでもシステムを作れてしまいます。実際に私が作ったものをお見せしますね。これは社内コンシェルジュというもので、社員が福利厚生や業務改善について気軽に意見を投稿でき、管理者がフィードバックを返せる投稿板です。データベースも『立ててください』と日本語で書くだけで作ってくれる。こうしたものが、Claudeの仕組みのなかでできてしまうんです」

――もともとプログラミングのご経験はあったのでしょうか。
須合氏「元々プログラマーでしたが、もう長く離れていました。今回も実際のコードは書かず、本当に日本語で命令していくだけです。たとえば『管理画面のヘッダーからこのアイコンを取ってください』と書けば、3分ほどでHTMLを直してくれる。社内ダッシュボードを発注すれば数百万円かかるようなものが、自然言語だけで作れてしまう。衝撃でしたね」
――実装にはどのくらいかかったのですか。
須合氏「正味で3週間ほどです。土台は1週間ほどでき、そこから改修を重ねました。だから東京DXカレッジでは、まさにこういうものを教えられるんです。まったくわからない非ITエンジニアの方でも、これだけのものが作れますよと。なんなら私たちがコーチします、と言えるわけです」

――誰でも作れる時代になると、セキュリティの不安もありそうです。
須合氏「おっしゃる通りで、今後は間違いなく『Claudeを教えてほしい』という依頼が増えてきます。そのときに、セキュリティをきちんと教えてほしい、生成AIで作った仕組みが本当に望ましいものかチェックしてほしい、といったニーズも出てくるはずです。そこにも着手していきたいと考えています」
「答えを教えないAI」Tech Nexusが育てる、考える力
――ここからは、もう一つの柱であるTech Nexusについて伺います。研修のなかで、必ず伝えていることがあるそうですね。
工藤氏「はい。大人は残業を減らし、生徒に向き合う時間をつくるために生成AIを使うべきです。けれど、子どもが自分の未来まで生成AIに依存してはいけない、と必ずお伝えしています。読書感想文や志願理由書を、そのままAIに書かせて提出してしまう高校生が、いま本当に多いんです。この問題意識が、そのままTech Nexusにつながっています」
――Tech Nexusは、どのような点が特徴的なのでしょうか。
工藤氏「私たちが開発する生成AIは、なんと答えを教えないんです。GeminiやCopilot、Claudeは、いい感じに答えを教えてくれます。でもTech Nexusは、答えを教えずに一緒に考えてくれる。たとえば『情報一の勉強の仕方がわからない』と入力すると、『どんな内容を学ぶ教科か知っていますか?』とクイズ形式で問いかけ、ヒントを出しながら、生徒自身が考えて答えを導いていく形になっています」

――先生の負担軽減にもつながりますか。
工藤氏「これはまさに個別最適化です。できる子も、ついていけない子も、これだけで解決できます。全科目に対応できるのも魅力で、先生に聞かずに、解き方を一緒に考えてもらえる。つまりTech Nexusは“先生のアシスタント”なんです。先生の役割は『教える』ことから、生徒ともっとコミュニケーションを取ることへと変わっていきます」
――データの取り扱いで、気をつけている点はありますか。
工藤氏「個人情報を聞かれても回答はしませんし、あくまで勉強に関して、答えを教えない形でアドバイスする仕様にしています。生身の先生がいることが大事で、各都道府県で導入されているGoogleやMicrosoftのツールで校務を効率化しながら、生徒には苦労しながら、しっかり頭を使ってほしいんです」
――すでに導入も始まっているのですね。
須合氏「今は江戸川区立篠崎中学校と瑞江第二中学校で、トライアルを実施しています。面白いのは、2校のうち1校は学校ではなく、生徒さんの保護者が費用を払ってくださっているんです。それでも『利用したい』と言ってくださって。料金は1IDあたり1,000円で、ご家庭でも出せる金額に設定しています」
プロのIT講師が伴走する強みと、これからの展望
――研修もシステムも、似たサービスはありそうですが、御社ならではの強みはどこにありますか。
工藤氏「ベンチマークしている競合は数多くあります。違いは、他社では使い方を教えるのがアルバイトの大学生というケースもあるのに対し、私たちはITエンジニアとして長く経験を積んだプロが教えること。その技術が情報の教育には必要だとわかっている人から学ぶことには、ものすごく価値があります。Tech Nexusに、プロの講師がつくこと。それこそが私たちの強みなんです」
――東京DXカレッジの研修は、満足度も高いと伺いました。
工藤氏「おかげさまで、満足度95%以上、リピート率99%をいただいています。一度きりで終わらず、成果や変化をきちんと見て上に報告することも大切なので、継続的にご利用いただいています」
――最後に、今後の展望を聞かせてください。
工藤氏「目指しているのは、全国に情報一・情報二の先生方が、きちんといる状態をつくることです。今は数学や国語の先生が情報も教えていて、過重労働になっている。日本に情報の専門の先生が揃うまでは、IT講師がサポートするワンストップ支援を続けたい。わかりやすい指導マニュアルや指導案づくりも含めて、教育委員会や文部科学省とも動いていきたいと考えています」
――須合さんは、そうした未来像を漫画でも発信されているそうですね。
須合氏「私たちが思い描く未来を、一本の漫画にして発信しています。物語は、夜遅くまで働く新卒二年目の先生が『学校を辞めようか』と悩む場面から始まります。情報の免許がないのに『数学の先生だから』と授業を任され、独学で苦しむ。学校ではいまだにFAXが主流で、ICT化も進んでいません。そんな先生が私たちのサイトに出会い、経験豊富なエンジニア講師による授業設計の支援や講師派遣、校務のICT化支援を受けて、過重労働から解放されていく。やがて情報の授業が学校の特色になり、生徒募集にもつながっていく。そんな未来を描いています。この漫画は東京DXカレッジの公式サイトで公開していますので、ぜひご覧ください」
――文章だけでは伝わりにくい現場の切実さが、漫画だと一目で伝わってきますね。
須合氏「いま、辞めたいと思いながら働いている先生が、社会に数多くいます。私たちは東京DXカレッジのIT講師と、Tech Nexusというサービスで、そうした先生方を助け、社会課題を解決したい。過重労働をなくし、情報の先生が専門的にいて、それを私たちがサポートできる体制をつくっていきます」
――本日はありがとうございました。
社名:株式会社グッドワークス
住所:〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町1-11 産報佐久間ビル2F
代表者:須合 憂
設立:2007年1月
HP:https://www.good-works.co.jp/
