
この記事は、Podcast「AI未来話」のエピソード「オラクル株40%急騰!AIバブルはいつ弾ける?」を再構成した内容をお届けします。
AIブームの熱狂は今、かつてないほど高まっています。オラクル株がわずか1日で40%を超えて急騰したニュースをきっかけに、その背景にある巨額契約や投資家心理の過熱が注目されました。本記事では、この出来事を切り口にAI市場の現状を整理し、1990年代末のドットコムバブルとの比較を通じて「AIバブルはいつ弾けるのか」を深掘りしていきます。
オラクル急騰と「AIバブル」論争の火種

オラクル決算発表後に株価が(終値ベースで)36%急騰。日中は最大で約43%高を付け、1992年以来の上昇率に。
―― 今日はどんなテーマでお話ししていただけますか?
「オラクル株が1日で36%上昇したんですよ。(日中の上げ幅は約43%)」

―― 40%ってすごいですね。
「そうなんです。株をやっていない方にはピンと来ないかもしれませんが、これは1992年以来の上昇率なんです」
―― ではなぜここまで急騰したのか。やっぱり“あの企業”が関わっているんですよね。
「はい。OpenAIです。もちろん彼らだけじゃないけど、大きく関わっています」
―― 彼らは本当にニュースの中心にいますね。しかもCEOのサム・アルトマン氏は『AIは今バブルだ』と明言してました。
「そうそう。アルトマン氏は『(投資家は)AIに過度に興奮している? 僕の意見はイエスだ』と“バブル”懸念を示しつつ『AIは長期的に非常に重要だ』とも語っているんです。だからどっちやねん、っていうツッコミが出るんですよ」
―― その矛盾も含めて面白いですね。市場は熱狂しているけど、当の本人は冷静に“バブル”と呼ぶ。
「はい。そういう不思議な構図なんです。だから今回は、このオラクル株急騰を切り口にして、AIバブルはいつ弾けるのか、あるいは本当に弾けるのかを考えてみたいと思っています」
9月10日決算→11日急騰→12日続報という時系列
―― ではまず、時系列を整理していただけますか?
「はい。決算説明会があったのは9月10日の朝6時(日本時間)です。そこで発表された内容が市場を動かしました。そして翌日9月11日にはロイターが株価急騰を速報。さらに9月12日には続報が重なりました」
―― たった2日でニュースが積み重なり、株価に直結する。AI分野がどれだけ敏感に反応されているかが分かりますね。
「ええ。株価っていうのは数字で即反応が出るので、過熱ぶりがとても分かりやすいです」
―― その感覚で見ると、急騰ってやっぱり危うさも感じますか?
「そうです。めったに起こらないことだからこそ、市場の熱狂の度合いを示していると思います。1992年以来ですからね。つまり30年ぶりの異常事態」
RPOって何?5年配分の例で直感的に理解する
―― 具体的に決算の中で何がそんなに注目されたんですか?
「それはRPOです。残存履行義務、つまり将来売上がどれだけ確保されているかを示す指標です」
―― RPOって普段聞き慣れないですね。
「そうですよね。SaaSやクラウド系の企業でよく使われる指標です。例えば5年間で1億円の契約を取ったとすると、毎年2000万円ずつ計上されますよね。その将来分をまとめて表すのがRPOなんです」
―― なるほど。契約した瞬間に全額が入るわけじゃなく、分割して収益化していくから“積み上がり”が重要になるんですね。
「はい。だから投資家はRPOを見れば、今後の売上がどれだけ固いかを判断できる。クラウドやSaaSではとても大事な指標です」
―― 今回のオラクルは、そのRPOがとんでもなく伸びたと。
「そうなんです。前年比で359%増。もう桁違いの伸びですよ」
―― 359%増…つまり約4.6倍ですか。
「はい。信じられないレベルです。普通は20%増でも『すごい』って言われるところを、いきなり4倍以上ですから」
―― そんな数字が出たら、そりゃ投資家は飛びつきますね。
「そうですね。なぜならRPOは短期的な売上ではなく、複数年にわたる契約の裏付けだからです。つまり“この先5年間は売上が確実にある”という安心材料になるんです」
―― 具体的にはどんな契約が背景にあったんでしょう。
「それがOpenAIとの大型契約だと言われています。あとで触れますが、3000億ドル、約44兆円規模とも言われるとんでもない契約が積み上がった。その分がRPOに反映されたわけです」
―― なるほど。だから一夜にして株価が急騰したんですね。
「はい。未来のキャッシュフローが確定したようなものですから、投資家から見れば魅力的に映ります」
指標が先行するときのリスク認識
―― でも実際には、その売上が現金になるのは何年も先ですよね。
「そうなんです。だから期待が先行しているとも言える。契約が履行されなかったり、途中で条件が変わったりするリスクもある。それでも投資家はとりあえず買いに走ったんです」
―― つまり、未来が固いと信じて株価が跳ねたけれど、実は不確実性も残っている。
「ええ。だからこれは典型的なバブル的動きでもあるんですよ。指標の一部だけを見て熱狂する。現金収益の裏付けが追いつかないまま株価が暴走する」
―― なるほど。359%という数字は華やかですが、それ自体が“過熱”を示すサインでもあるんですね。
「そういうことです。今回のオラクルの決算は、未来の成長を強烈にアピールする一方で、冷静に見ればまだ履行されていない未来を売っているに過ぎない。ここにAIバブルの危うさが透けて見えると思います」
―― では、その未来を保証するはずの契約――OpenAIとの巨大ディールについて、次に詳しく教えてください。
「はい。3000億ドル(約44兆円)規模とも言われる前代未聞の契約です」
OpenAI×Oracle:3000億ドル報道とStargateの輪郭

9月11日にロイターが速報で“オラクル株急騰”を伝え、その文脈でウォールストリートジャーナル(WSJ)がOpenAIとの契約を報じました。
―― 契約額は300billion。つまり3000億ドル規模ですか。
「そうです。日本円にすると44兆円から45兆円。とんでもない金額ですよ。市場最大級と呼ばれているレベルです」
―― ただ、その契約内容って具体的にどこまで決まっているんでしょう。
「実はまだ不透明なんです。報道では2027年から開始とされていますが、詳細は明らかになっていません」
―― じゃあお金は動くけれど、どんな形で使われるかはまだ分からないと。
「そうです。例えばデータセンターをオラクルが建てて管理するのか、OpenAIが使用権を持つのか、その辺りは未確定です。だから株価は急騰したけど、実際にはギャンブル的な要素も含んでいるんです」
「44兆円規模」インパクトの投資家心理への波及
―― でも44兆円規模って、想像を超える数字ですよね。
「はい。もし5年間でそれだけの規模感が見込まれると考えたら、投資家は大喜びしますよね。もう勝ち確です」
―― 確かに。投資家心理はそういう“確定っぽさ”に敏感です。
「だからこそ、現実よりも心理が先に走って株価が跳ね上がる。期待のインパクトは数字の大きさに比例しますから」
―― でも冷静に考えると、全体像は依然として計画段階。期待値だけが独り歩きしているとも言えますね。
「そうなんです。バブルの典型的なパターンですね。未来の確約に見えるけど、実際は未確定要素だらけ。それでも数字があまりに巨大なので、市場は踊らされる」
インフラは誰のバランスシートに乗るのかという論点
―― Stargateプロジェクトという枠組みに含まれると聞きました。
「はい。1月にOpenAIが発表した枠組みで、初期出資者はOpenAI/ソフトバンク/オラクル/MGX。今回の契約もStargateの一部と位置づけられています」

―― なるほど。ではそのインフラ整備のコストや収益は、最終的に誰が背負うのか。
「そこがまだはっきりしないんですよ。オラクルの帳簿に計上されるのか、OpenAIが使用料を払う形になるのか。いずれにせよ“AIには膨大な計算資源が必要になる”という事実だけは明確です」
―― つまり、この契約の真の意味はAIインフラ戦争の本格化だと。
「はい。投資家にとっては、誰がその土台を押さえるのかが最大の関心事なんです。だからOracleの存在感が一気に増したわけです」
―― ただし、まだ不確定要素が多い。市場は熱狂しているけど、実際の履行はこれから。
「そうですね。そこにバブル的な危うさも見える。次の論点は、Microsoftとの関係をどう整理するかです」
MicrosoftとのMOU

―― OracleとOpenAIの提携は分かりました。でも、Microsoftの存在が気になります。Azure独占契約がありましたよね。
「そうなんです。従来はOpenAIのAPIはAzure独占で、計算資源もAzure優先という強い縛りがありました。ただ今年1月に新規キャパシティの独占がROFR(優先交渉権)に緩和され、OpenAIは自前や他社での追加キャパシティ構築が可能になったんです」
―― それが、9月12日に新しいニュースが出ました。
「はい。9月12日(日本時間)にMicrosoftとOpenAIがMOUに合意したと発表されました。関係の次フェーズに向けた非拘束の覚書で、詳細は最終契約で詰めるという位置づけです」
「悪魔の契約」からの緩解:何が変わり、何が残る?
―― 具体的にどう変わったんですか?
「ざっくり言えば、APIはAzure独占のままです。いっぽうで計算資源の独占は緩和され、Microsoftに優先交渉権(ROFR)があるという形になりました。だからOpenAIがOracleやGoogleと追加キャパシティを手当てしていく動きが今年に入って一気に進んだ、という流れです」
―― なるほど。だからOracleとの提携も表に出せるようになった。
「そうです。Stargateの一環としてOracleと4.5GWを積み増す合意や、$300Bの長期契約をWSJが報道。さらにGoogle Cloudの活用も伝えられています。MOUはその関係整理の延長線にあると捉えると分かりやすい」
―― ただし非拘束覚書ですから、まだ完全に自由というわけではないんですよね。
「そうですね。最終契約の詳細はこれから。ただAzure一本足からの脱却が現実に動き出しているのは確かです」
交渉劇の裏側に想像する力学とステークホルダー
―― それにしても、Microsoftがよく飲みましたよね。
「年初の合意で独占を緩める代わりにROFRにしたり、関係の次フェーズをMOUで整理したりと、囲い込みを緩めつつ筋を通すバランスの取り方が見えます」
―― 結果として、OpenAIは非Azure展開の道を確保し、Oracleとの契約も正当化された。
「年初の合意や夏までの一連の合意・報道で非Azure展開が現実化し、今回のMOUで関係のフレームが再確認された、という着地ですね」
OpenAIのガバナンスと資本の距離

―― Oracleとの契約やMicrosoftとのMOUと並んで、もう一つ重要な発表がありましたね。
「はい。OpenAIがこれからも非営利(親組織)は継続すると明言したんです」
OpenAI started as a nonprofit, remains one today, and will continue to be one – with the nonprofit holding the authority that guides our future.
— OpenAI Newsroom (@OpenAINewsroom) September 11, 2025
As previously announced and as outlined in our non-binding MOU with Microsoft, the OpenAI nonprofit’s ongoing control would now be…
―― これまで営利化するんじゃないかと噂されていましたよね。
「そうなんです。資金調達も巨額だし、実際に営利法人的な動きも多かったので、いずれ営利化するんじゃないかと見られていました。でも今回の発表で非営利のまま続けますと改めて線を引いたんです」
なぜ今「非営利」を再確認したのか
―― なぜこのタイミングで非営利を強調したんでしょう。
「大きく2つの理由があると思います。ひとつは外部の投資家やパートナーに対し私たちの軸はブレないとアピールするため。もうひとつは社会的信頼を維持するためです」
―― AIという巨大技術を扱う団体として、利益第一ではない姿勢を示すこと自体が意味を持つんですね。
「そうです。営利企業だと株主のために収益を追い求めるのが当然ですが、非営利なら人類全体の利益のためにと掲げやすい。理念と行動の整合性を取る狙いがあると思います」
インフラ巨額投資とミッションの同居
―― ただし実際には数千億ドル規模のインフラ投資をするんですよね。そこはどう整合するんでしょう。
「難しいですよね。インフラ整備は完全にビジネスの領域です。でもそれを“非営利のミッション遂行のために必要だ”と位置づけることで、ガバナンスを守ろうとしているんだと思います」
―― つまりお金は動くけど、儲けるためではなく、使命のために投資するというスタンス。
「そうですね。もちろん現実的には資本市場とも関わらざるを得ませんが、少なくとも理念的には“営利ではない”と示すことでバランスを取ろうとしている」
―― 非営利を掲げることで、社会的な疑念を抑え、巨大投資への理解を得やすくする。
「はい。AIという領域では、そのメッセージ性がとても重要だと思います」
利害調整は?
―― でも出資者からすると、リターンを求めたいはずです。
「そこが難しいんですよね。非営利の親組織と営利部門の距離を取りつつ、資金調達の仕組みを工夫してリターンも設計している。だから非営利なのに投資を集められるという特殊なモデルになっているんです」
―― 研究コミュニティへのメッセージもありますか。
「もちろんです。“私たちは利益目的ではない”と宣言することで、研究者や社会からの信頼を得やすい。倫理的にも強調しやすい。つまり非営利という看板は、投資家・パートナー・研究者という全ての利害関係者を調整するカードなんです」
―― なるほど。理念と資本のバランスをどう取るか。OpenAIの進む道は、AIガバナンス全体の縮図にも見えますね。
「そうですね。だからこの宣言は単なる形式じゃなく、AI時代の方向性を象徴していると思います」
サム・アルトマンの本音:「バブルだ」と「歴史的転換」の両立

―― OracleやMicrosoftの動きと並んで、CEOサム・アルトマンの発言も注目されましたね。
「はい。彼は『投資家全体としてAIに過度に興奮している段階か? 私の意見はイエス』と述べ、“バブル”を明言しました。同時に『AIはこの時代で最も重要な出来事だ、というのもまたイエス』とも語っています」
―― でも同時にAIはこの時代で最も重要な出来事だとも言っている。
「そうなんです。核にある真実に、賢い人たちが過度に興奮する時にバブルは起きるという捉え方で、過熱と本質を両立させて説明しているんです」
「少人数+アイデアの法外評価」発言の射程
―― 具体的にどんな発言をしたんですか?
「例えば、ごく少人数とアイデアだけのAIスタートアップが『非常識(insane)』『非合理(irrational)』な評価で資金を集めている、と。『誰かはそこで火傷(burned)する』とも警告しています」
―― つまり投資家の熱狂が現実を超えてしまっている。
「そうです。合理性を欠いた投資が増えている。だからバブルだと呼んでいるんです」
―― けれども彼自身はその資金の恩恵を受けている立場ですよね。
「ええ。外からは矛盾に見えますが、彼は『(バブルでも)多くの人は大いに稼ぐ一方、誰かは桁違いに損をする』という非対称リスクをはっきり指摘しています」
「数兆ドルのインフラ投資」宣言と今回の答え合わせ
―― さらに、OpenAIは近い将来インフラに数兆ドル規模の投資を行うとも語っていましたね。
「そうなんです。『OpenAIは近い将来、データセンター建設にtrillions of dollarsを費やす』と発言し『経済学者は“狂気だ、無謀だ”と言うだろうが、我々はやり切る』とまで言っていました」

―― 実際、その発言(8月15日)から約1か月後(9月10日)にOracleとの$300B/5年の大型契約報道が出た。
「はい。WSJが2027年開始と併せて報じ、ロイターも追随しました。アルトマンの“桁違いの投資”発言が、具体的なクラウド調達契約という形で裏付けられた格好です」
―― すると“バブルだが歴史的転換でもある”という二重の認識は、決して矛盾ではない。
「そうです。過熱を認めつつも、基盤インフラに投資し続ける合理性がある——リスクと可能性の非対称を踏まえた立場なんです」
MIT報告「95%がPLに成果なし」の衝撃

―― サム・アルトマンがバブルだと指摘した直後に、衝撃的な報告も出ましたね。
「はい。MIT(MIT Media LabのProject NANDA)のレポートで、企業のGenerative AIパイロットの約95%が、PL(損益)に測定可能なリターンを生んでいないと示されたんです。つまり成果が数字で確認できないケースが大半ということです」

―― 95%ですか。ほとんどのプロジェクトが結果を出せていない。
「そうなんです。レポートは150件のインタビュー/350人調査/300件の公開導入事例に基づいていて、わずか5%だけが素早い収益成長に結びついたと要約されています」
期待と収益の乖離:なぜPoC地獄に陥るのか
―― どうしてそんなに失敗が多いんでしょう。
「大きな理由のひとつがPoC止まりです。外部調査でも、AIのPoCの約88%が本番に到達しないというデータがあります。試作はできるが業務に組み込めない。現場フローへの統合コストや運用設計が重く、歩留まりが極端に悪い」
―― つまり試してみたけど、業務に組み込めないという状況。
「そうです。さらに直近のS&P Globalの調査では、PoC〜採用の過程で平均46%が途中断念という報告もあります。スピード優先で検証を積み重ねる一方、ROI定義やワークフロー適合が追いつかない」
コスト構造:インフラ費・運用負荷・人材ボトルネック
―― もう一つの理由はコストですか。
「そうですね。推論(インファレンス)コストやクラウド費が想定以上に重いという声が目立ちます。コストが不安定/高止まりだと、利用を絞らざるを得ず、高付加価値ユースケースに限定されがちです。クラウドコスト管理に苦戦という調査も出ています」
―― なるほど。しかも人材も不足していますよね。
「はい。組織に合わせた統合・運用を回せる人材はまだ限られ、運用負荷と人件費が上振れしやすい。結果としてすごいけど赤字になりやすい構造です」
「赤字へ資金が集まる」逆説と資本市場の論理
―― OpenAI自体も赤字ですよね。
「売上は急成長している一方で、キャッシュフローは当面マイナスとの見立てが続いています。2024年は赤字、25年も大規模なキャッシュバーンが報じられており、黒字化は数年先という論調です」
―― それなのに、資金はどんどん集まる。
「短期の損益より、将来の規模化(スケール)に賭ける資本が厚く、赤字でも大型の計算資源確保に踏み切る。この乖離がバブルの温度感を生んでいるのだと思います」
―― 期待だけが膨らんで、現実は赤字が続く。
「そうです。MITの95%という数字は、いまこの瞬間の実装は難しいという現実を示しています。長期では重要でも、短期のPL貢献はまだ限定的です」
ドットコムバブルの教訓

―― AIバブルの議論を深めるなら、過去のバブルも振り返る必要がありますね。
「はい。典型的なのが1990年代後半から2000年代初頭にかけての“ドットコムバブル”です」
―― インターネットが普及し始めた頃ですね。
「そうです。当時はインターネットが世界を変えるという熱狂が一気に投資を呼び込みました」
ドメイン名熱狂と「.com」に資金が集まった構造
―― どんな投資が行われたんですか。
「例えば社名に“.com”が付くだけで資金が集まる現象が起きました。発表前後10日で累積異常収益が約74%という学術研究もあります。収益の裏付けがなくてもネット関連だから伸びるに違いないと信じられていたんです」
―― 今のAIブームにそっくりですね。
「そうなんです。AIと名乗る企業に資金が集まる現象は、当時の.comと構造が似ています」
―― 実態が伴わなくても名前だけで評価が跳ね上がる。
「はい。だからこそ投資が過熱し、現実との乖離が広がっていったんです」
FRBの利上げ・外的ショックの重なり
―― バブルはどんなきっかけで崩壊したんでしょうか。
「2000年3月10日にNASDAQ総合は5,048.62でピークを付け、その後失速します。背景には、1999年半ばから2000年5月にかけてFF金利が4.75%→6.5%へ引き上げられた利上げ局面や、景気減速懸念に加え、2001年の同時多発テロなどの外的ショックが重なりました」
―― 外的ショックが引き金になった。
「そうです。でも根本には収益がない企業に投資しすぎたという構造的な問題がありました。結果として多くのドットコム企業が淘汰されました」
―― 株価はどれくらい落ちたんですか。
「NASDAQ総合はピークの約5,048から2002年10月9日に1,114まで下落。約78%が吹き飛んだ計算です」
それでもインターネットは主役になった
―― すごい暴落ですね。でもインターネットは消えなかった。
「そうなんです。バブルは崩壊したけど、インターネット自体はその後も普及し、世界の主役になりました」
―― つまりバブル崩壊=技術の死ではない。
「その通りです。むしろ淘汰のプロセスでした。収益モデルを持たない企業は消えたけれど、実ビジネスを確立した企業は生き残って成長した」
―― だからAIも同じ。バブルは弾けても、技術は残る。
「はい。AIも社会の基盤になっていく。その過程で多くの企業が淘汰されるでしょうが、真に強いビジネスを持った企業は必ず残ります」
―― 歴史は繰り返す、ですね。
「そうです。だから今のAIバブルも、いつ弾けるかではなく弾けた後に誰が生き残るかが本当の焦点なんです」
誰が生き残る?インフラ勝者の条件

―― ドットコムバブルでは淘汰が進んでもGoogleやAmazonは生き残りました。その違いはどこにあったんでしょう。
「一言で言えば基礎収益がしっかりしていたことです」
―― つまりビジネスモデルの堅牢さ。
「そうです。Googleは検索技術をサービスとして広めるだけでなく、そこに広告モデルを組み合わせて安定収益を確保しました。AmazonもECに加えて物流とクラウド(AWS)を育てて、収益の柱を増やしていった」
収益モデルの堅牢さ
―― ただのアイデアではなく、収益を生み出す仕組みを持てたかどうか。
「はい。テクノロジーそのものより、どうマネタイズするかが勝敗を分けました。これが生き残った企業の共通点です」
―― 今のAIバブルでも同じことが言えるわけですね。
「そうです。技術力や研究成果だけでは十分じゃない。持続的にお金を稼げる仕組みを構築できるかが重要です」
―― その観点で今のAI時代を考えると、どこが強いんでしょう。
「やはりインフラを押さえている企業です。半導体、データセンター、基盤ソフトウェア。これらはAIを動かすために必須で、他に置き換えにくい=スイッチングコストが高い」
―― スイッチングコストが高い領域ですね。
「はい。一度依存したら簡単には離れられない。だから収益が安定しやすいんです。NVIDIAのGPUや主要クラウドのデータセンターはまさにその典型です」
―― そう考えると、Oracleの存在感も理解できます。
「そうです。Oracleは元々データベースに強く、今回AIとの統合(Oracle Database 23aiのベクター検索など)を打ち出した。さらにOpenAIと$300B(約44〜45兆円)規模の契約が報じられた。まさに“土台プレイヤー”へのシフトを狙っているわけです」
まとめ
今回のエピソードでは、オラクル株の(終値ベースで)約36%急騰(日中は最大で約43%高)をきっかけに、AIバブルの実態とその背景を掘り下げました。RPOの急伸、OpenAIとの巨額契約、Microsoftとの関係調整(非拘束のMOU)、そして非営利継続の宣言。サム・アルトマンの「バブルだ」という発言やMITの調査結果からも、期待と現実の乖離が浮き彫りになりました。
過去のドットコムバブルと比較すると、現在のAI市場も同じように熱狂と不安が入り混じっています。しかしバブルは崩壊と同時に淘汰の過程でもあり、生き残った企業が次の時代を担います。インフラを押さえ、持続可能な収益モデルを築ける企業が本当の勝者となるでしょう。
大切なのは「バブルはいつ弾けるか」を恐れることではなく、「弾けた後に何が残るのか」を見極めることです。AIという技術は確実に社会の基盤になっていきます。だからこそ熱狂に流されず、冷静に選別眼を持って未来に備える姿勢が求められています。