
この記事は、Podcast「AI未来話」のエピソード「MOFURE開発に学ぶクリエイター価値論──キャラクターは人がつくる」を再構成した内容をの後編をお届けします。
前編の記事はこちらから。

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今後のキャラクターと「佐藤こはる」AIプロジェクト
―― 今はMOFUREにキャラクターが2人いるとのことですが、今後はさらにキャラクターを増やしていく計画もあるんですよね?『佐藤こはる』ちゃんというキャラクターをAI化するプロジェクトを検証中していると伺いました。
今野氏「こちらは小学館のXR推進室というチームと連携して取り組んでいるテストプロジェクトで、まだ一般公開はしていないのですが、特定の人が追体験できるように開発しています。
塩対応の佐藤さんというキャラクターは、好きな男の子にだけは甘くなっちゃうというストーリーで、最初は少しツンとされるんですけど、だんだんと甘くなっていく様子を会話を通じて楽しんでいただける内容になっています」

―― いわゆる好感度を上げていく仕組みですか?
今野氏「はい、裏側には好感度がどう上がっていくかの設定がいろいろありまして、徐々に仲良くなっていく感じです」
―― 最近、XのGrokからコンパニオンモードをリリースして話題になりましたよね。好感度が上がるとキャラクターが変化していくという仕組みでかなりバズっていましたが、日本のIPでそれに近い感じのプロダクトが出てきたらすごく伸びそうだなと思いますね。
今野氏「そうですね。ただ佐藤こはるちゃんの場合は、単純に好きだと言えば好感度が上がるわけではないんです。作品のキャラクターにはそれぞれの人格や設定があるので、仲良くなるためのコミュニケーション方法もキャラクターごとに異なるように設計したいと考えています」
―― 確かに作品のキャラクターごとに攻略法が違うというのは、恋愛シミュレーションゲームでもありますよね。
今野氏「実は今回のMOFUREのキャラクターには褒められると逆に嫌がる設定を入れていたりします。やめてよ!みたいな」
―― あぁ!ツンデレ的な。
脇坂氏「ユーザーの方々に楽しさを見出してもらえたらいいなぁと思って、ちょっとした設定を入れています。ただそういう部分をどこまで取り入れるのかはすごく難しい課題だと思っています」
今野氏「特に小学館のグループ会社になって、原作を大切にしている方々と一緒にプロジェクトを進める機会が増えてきた中で、原作や元の設定をどう守っていけるのか、というのが大きなポイントになっています。
映画やアニメ、グッズといった形でIPを展開するときに『このチームなら任せられる』という信頼感を築く必要があるんです。そのために技術的なアプローチなのか、ファンと同じ心理で扱えるということを武器にするのか、何を強みにするのかはまだ答えは出せていないですが、今回自社でアプリを作りイラストレーターさんに直接依頼したことは、今後はいろんな漫画作品やイラストレーターさん、もしくはVTuberさんだったりクリエイターさんとの共創を作っていくための小さな一歩です」
AI搭載によるキャラクターの世界観・ストーリー維持の課題
―― AIを搭載することによって、そのキャラクターのストーリーとか背景が崩れる可能性があるみたいなイメージですか?
今野氏「そうですね。そこがどう守れるか、活かせるのか。『こんなこと言わないよな』って、やっぱり裏切っちゃうと我々の目的とは別になってしまうので、それをどう作れるのかが課題です」
―― Grokのコンパニオンモードだと、JSONを使って人格を変えるみたいなのが広まりましたけど、その人格を変えられてしまったら、もう意図していることとはかなり変わっちゃうじゃないですか。それが良しとされると、逆にもっとイラストレーターさんが描きたくなくなっちゃうとか、そういう問題は確かに抱えちゃいそうだなと感じましたね。
今野氏「さらに違うメディアだったりコンテンツの形にすることもクリエイティブの一環かなと思っておりますので、守ることと新しく生み出すこと、その両方が叶えられるといいのかなと思っています」
―― 二次創作を良しとするかしないかみたいなのに近いんですかね。
今野氏「二次創作だったりメディアミックスだったり、原作が映画やアニメになる時に『すごく良いものができた』と思える場合と『これは違う』という批判が出てしまう場合があるように、人間が作るものである以上そこにはいろんな結果が出てしまうと思うんですよね。AIを使ってIPを展開するというのも、それと同じようなチャレンジかなと感じています」
―― 確かに。それらを聞くと人が調整する仕事はまだまだ必要な気がします。
今野氏「そうですね。それを受けて新たに作る人の気持ちだったり、作品への理解がすごく大事なのかなと思います」
AI精度向上によるクリエイター価値の変化
―― ここからはちょっと先の未来の話をしていきたいと思います。これからAIの精度がより高まっていくと思うんですけど、その過程でクリエイターさんの価値はどのように変化していくと考えられてますか?
脇坂氏「さっき話してた中で工業製品の例を出したと思うんですけど、それと同様に『一点もの』という視点で付加価値が高まってくる未来があると思ってるし、来るといいなと私自身すごい思っています」
―― ユニークということですね。今野さんはどういう風に考えられてますか?
今野氏「もちろんユニークな作品の価値も高まることも感じていますし、その作品を学習するということに対しては、今は結構賛否両論でネガティブに思われるクリエイターさんもいらっしゃると思うんですが、自分が作った作品をどうAIと掛け算して新たな創作活動にしていくかっていうのを、クリエイターさん本人が新しい作品として挑戦してみるっていうのもありなのかなと。
これは全然まだアイデアにはなってないんですけど、自分がもしクリエイターだったらとか色んなクリエイターさんもAIに今すごく向き合っていて、それをどう取り入れていくかというところだと思うので、面白いものが誕生するといいなっていう期待も一方でありますね」

―― クリエイターとして一点ものをとにかくこだわり続ける世界線と、それをやりつつもAIでどう拡張するのかというジレンマは、実はどの業界にも起きている気がしていて、どちらも頑張らないといけない大変な時代になったと感じています。
脇坂氏「そこはいつかは馴染んでいくんじゃないかなと思っています。例えばパソコンが仕事に取り入れられていった世代と、取り入れられる前の世代は、パソコンを使ったほうが仕事が便利になっているけど、パソコンを使わない仕事で生きてきた人たちは、きっとパソコンを使うか使わないかで悩まれたと思うんですよね。
だからきっと同じように、今はまだ感情的なところも含めて難しいところはあると思うんですが、AIをうまく使って自分らしさや一点ものを出される方もいらっしゃるし、最近流行ってるClaude Codeとか、プロトタイプを作れるものを使って、例えばイラストレーターさんが自分一人でゲームを作ってみたり、自分のイラストを使っているから見た目にもこだわったゲームができたりとか。便利なツールとして向き合っていく未来があるんだろうなとは思います」
―― 確かにそうかもしれません。本質の価値はきっとそこまで変化しないと思っている感覚でしょうか?
脇坂氏「そうですね。本当にそこかなと思っています」
AI時代における企業側の指標や評価軸
―― AIがイラストを描けるけど、人に頼むという選択をするためには、企業側はどういう指標だったり評価軸みたいなのを持つべきだと思いますか?
脇坂氏「イラストだけじゃなくて音楽とか企画とか、もう何でも『AIでいいじゃん』というのは私自身もありましたが、正解のないものであったり『エゴ』を出したいなって企業の中や、開発チームの中で思えるところこそ、あえて人にお願いする選択があるのかなと思ってはいます」
―― 『エゴ』はとても大事な気がしますね。
脇坂氏「そうですね。これを伝えたい、これを届けたい、これが好きと思っているのが私の中ではクリエイターの一番のエゴだと思っています」
―― だから企業側もどういった価値を提供したいのかというビジョン・ミッション・バリューを明確に持てば持つほど、人に頼みたいって思う可能性が高くなりそうな気がちょっとしました。
脇坂氏「きっとありそうですよね。『ここはこだわるべきだから人じゃない?』みたいな会話ってきっとあると思うんですよ」
―― 確かに弊社でもあります。今野さんはいかがですか?
今野氏「クリエイティブに長けた会社さんや、デザイナーさんが社内にいるような会社さんでも、企画段階では『あ、これイラストAIだな』と感じることがあり、そのような流れが取り入れられているのを見かけます。ただ、コンセプトが固まるまではAIイラストを使っていても、最終的にはプロにお願いしたいという気持ちが企業側やサービス提供者側にあるのかなと思っています。
それがなぜなのかというと、AI作品に対する嫌悪感や、AIにリスペクトを感じてはいけないという価値観があるからなのか。その答えを出すのは難しいんですけど、人と人が一緒に仕事を作り上げていくことが、人として正解なんじゃないかと思ってしまう自分もいて、本当に難しい問いだなと感じています」
エゴが重要になる時代へ
―― 最後に、AIに仕事を奪われるんじゃないかと不安を抱えているクリエイターさんに向けて、どうやって価値を高めていけばいいのか、アドバイスをいただけますでしょうか。
脇坂氏「我々もクリエイターとして会社に所属していて、自分の仕事もなくなっちゃうんじゃないかなと思うことがあります。でも、ディティールだったり、その人ならではのストーリー性みたいなものを作品に感じられることが大事だと思っていて、そういう作品を世に出すお手伝いをしたいですし、一緒に仕事したいクリエイターさんって、そういう方なのかなって感じています」
―― なるほど。やっぱり背景だったりストーリーにどれだけこだわれるかが価値を高めることに繋がるんじゃないかなということですね。
脇坂氏「そうですね。現状のAIの制作物は、こちらの指示に従ったいいものが出来上がっていると思うんですが、さっきの言葉でいうと『エゴ』みたいなものが感じられないというか。綺麗に収まってるけど『ここだけ逆に違和感ですごく気になって見ちゃう』ような、良い意味での違和感とか、その人らしい空気が作品に乗ってくることがすごく重要だと思います」

今野氏「私は元々ARライブの会社出身とお伝えしたと思うんですけど、その会社に久々に遊びに行った時に、映像チームが撮影をしていて、そこで大御所の先輩の話を聞いたんです。その方は『今までずっと映像畑でやってきて、機材の進歩に伴って映像も進化してきたけど、機材がなくてもAIで良い映像が作れちゃう時代になって、自分としてはすごくショックだった』と。ただそれを踏まえて『やっぱり映像を撮るとか、現場の面白さとか、撮影自体の贅沢さをすごく実感した』という話をしていて」
―― ああ、なるほど。
今野氏「それを聞いて思い出したんですけど、やっぱり作り手が制作の工程自体をどれだけ楽しむかということが、これから贅沢になっていくのかなと」
―― その贅沢が体験として昇華されて、結果的にAIには作れないものが生まれるようになるかもしれませんね。抽象的ですけど、クリエイターの価値を今後も高めていくためには、過程を楽しんだり、体験を重視したり、AIができないところにどんどん時間を使って表現していくのがすごく大事なんじゃないかなと思いました。
今野氏「そうですね。先ほど脇坂が『エゴ』と言っていて、最初は『エゴか』ってちょっと思ったんですけど」
―― あ、そうなんですね。
今野氏「でも、クリエイターさんとかエンジニアさんと仕事をする時に、クライアントからオーダーされていることが叶わないようなフィードバックをクリエイターさんからいただくことがあって『ここは譲れないです』みたいな。そういうことってAIでは起こらないですし、結果的にそれが面白い作品に繋がったりするなって思いました」
―― エゴがぶつかることで新しいものが生まれますよね。エゴは今後すごく重要になるのかもしれません。エゴは体験してきたことから生まれるものだと思うので、クリエイターさんは自分のエゴをどれだけ出せるか、ということがとても重要になってくる気がしました。
まとめ
今回は、株式会社THRUSTER(スラスター)の今野希歩子さんと脇坂真広さんをゲストに迎え、睡眠特化型AI会話アプリ「MOFURE(モフレ)」の開発背景を伺いました。
AIが進化し続ける現代においても、クリエイターが生み出す「一点もの」の価値や、人間ならではのエゴやストーリー性がますます重要になってくることを再認識しました。
AIと人間がうまく協力していく未来に向け、クリエイターが自らの体験や過程を大切にすることで、独自の価値を高めていけるのではないでしょうか。
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