
近年、「AIに奪われた仕事」が頻繁に話題となり、多くのビジネスパーソンが将来への不安を感じています。
しかし、2025年時点でAIの導入によって完全に消滅した職種は、現在ほとんど確認されていません。
本記事では、最新の統計データや国内・海外の事例・一覧をもとに、AIと雇用の実際について客観的に検証し、今後求められるキャリア戦略やスキル習得の方向性について解説します。
AIに奪われた仕事は現在どうなっているのか?消滅しない理由を解説

「AIが仕事を奪う」という声が広まりつつありますが、実際のところはどうなのでしょうか。
ここでは最新のデータをもとに、現時点で特定の職種が消滅していない背景について、客観的に分析します。
統計で見る「AIに奪われた仕事」とリスクの現実
「AIに仕事を奪われる」という言葉が注目を集めていますが、実際にどの程度の職種が影響を受けているのでしょうか。
公的データをもとに現状を整理してみます。
OECDの調査によれば、平均で約27%の職種がAIによる自動化の“高リスク”にあるとされています。
When considering all automation technologies including AI, 27% of jobs are in occupations at high-risk of automation.
出典:https://www.oecd.org/en/topics/sub-issues/ai-and-work.html
訳:AIを含むすべての自動化技術を考慮すると、27%の職種が自動化リスクの高い職種です。
ただし、これは職種そのものが消滅するという意味ではなく、各職種の業務の一部がAIに置き換わる可能性を示したものです。
IMFも2024年の報告書で、労働人口の約40%がAIの影響を受けると分析しています。

しかし、これは「仕事がなくなる」というよりも、「AIと協働しながら働く機会が増える」といった意味合いが強い内容です。
つまり、リスクが存在するのは事実ですが、それが直ちに大規模な雇用喪失につながるわけではありません。
なぜAI導入がすぐに解雇につながらないのか
AIの進化が大きな注目を集めている一方で、実際の企業現場では「すぐに人員が削減される」といった急激な変化はほとんど見られていません。
その大きな要因のひとつが、AIの導入に伴うコストや時間的な制約です。
MITの研究チームが視覚認識タスクの自動化について行った調査によれば、経済的に自動化が合理的と判断できるケースは、全体のわずか23%にとどまっています。
We find that currently, only 23% of worker wages being paid for vision tasks would be economically attractive to automate with AI.
訳:現在、視覚関連業務の労働者賃金のうち、AIによる自動化が経済的に魅力的であるのは、わずか23%に過ぎません。
出典:https://ide.mit.edu/wp-content/uploads/2024/03/RB__03-08-24__final.pdf
技術的に自動化が可能な業務であっても、実際には投資に見合うだけのリターンがすぐに得られるとは限らないのが現状です。
さらに、AIシステムを導入・運用するには、専門人材の確保や既存業務プロセスとの調整といった実務的な課題も数多く存在します。
こうした背景から、現段階でAIが人を一気に代替するというのは、現実的とは言いがたい状況です。
AIと人間の「協働」が企業の基本戦略
AI導入が「人間の代替」ではなく「協働のパートナー」として進められるケースが、企業現場で着実に増えています。
PwC’s 28th Annual Global CEO Surveyによれば、56%の経営者が生成AIの活用によって従業員の時間の使い方が効率化されたと回答し、32%の企業で収益が、34%で収益性が向上したと報告されています。
More than half (56%) tell us that GenAI has resulted in efficiencies in how employees use their time, while around one-third report increased revenue (32%) and profitability (34%).
出典:https://www.pwc.com/gx/en/issues/c-suite-insights/ceo-survey.html
訳:過半数(56%)が、ジェネレーティブAIが従業員の時間の使い方に効率化をもたらしたと回答しています。一方、約3分の1が売上増加(32%)と利益率向上(34%)を報告しています。
また、13%の企業で人員削減が行われた一方で、17%は生成AI導入に伴い人員が増加したと答えており、AIが単なるコスト削減ツールではないことは明らかです。
Some CEOs (13%) say they have reduced headcount in the last 12 months due to GenAI; companies in insurance, retail, pharmaceuticals and life sciences were most likely to have made such cuts (16%). Yet a slightly higher percentage (17%) tell us that headcount has increased as a result of GenAI investments.
出典:https://www.pwc.com/gx/en/issues/c-suite-insights/ceo-survey.html
訳:一部のCEO(13%)は、過去12ヶ月間でジェネレーティブAI(GenAI)を理由に人員削減を実施したと述べています。保険、小売、製薬、ライフサイエンス業界の企業は、このような削減を実施した割合が最も高かった(16%)。しかし、やや高い割合(17%)の企業が、ジェネレーティブAIへの投資により人員が増加したと回答しています。
営業現場ではAIが顧客分析や提案資料の作成などを担い、人間は対話や最終的な判断に専念するなど、役割分担が進んでいます。
このように、AIと人がそれぞれの強みを活かして協働するモデルは、コスト削減を超えた新たな価値創出の基盤として定着しつつあります。
日本では生成AIの活用自体がまだ限定的
海外と比較すると、日本における生成AIの業務活用は依然として限定的です。
総務省「令和6年版 情報通信白書」によれば、日本企業で生成AIを「すでに活用している」と回答した割合はわずか9%にとどまっています。
さらに「今後活用する予定」とする企業も15.7%に過ぎず、米国や中国と比べて導入のスピードに大きな差があることが明らかになっています。

この背景には、既存業務との統合の難しさや、プライバシー・セキュリティへの懸念、AI人材の不足といった課題が挙げられます。
日本独自の「属人化した業務構造」も、AI導入の障壁となっているのが実情です。
日本企業の多くは、AIによる仕事の代替以前に、“導入そのもの”が大きな課題となっている段階にあるといえます。
AIに奪われる仕事と奪われない仕事とは?得意分野から見る職種マップ

AIがすべての仕事を奪うわけではありません。
まずはAIが得意とする分野を整理し、どの職種がリスクにさらされやすいのか、全体像を把握しておくことが重要です。
AIが人より得意なこと(主要タスク)
AIは、明確なルールや構造が定められた作業において、極めて高いパフォーマンスを発揮します。
たとえば、テキストの要約や翻訳、コード生成、パターン認識に基づく異常検知といった分野は、生成AIや機械学習モデルの強みが最も発揮される領域です。
これらの技術は、業務の高速化や高精度化を実現し、効率向上に貢献しています。
具体的には、カスタマーサポート分野でのFAQの自動応答、経理業務における請求書や領収書の自動読み取り、ソフトウェア開発現場でのテンプレートコードの自動生成など、既に多くの現場でAIの導入が進んでいます。
実際、IBM Institute for Business Value(IBV)のCEOを対象としたカスタマー・サービス向け生成AI活用ガイド調査によると、調査対象となったCEOの約50%が、組織が生成AIをはじめとする新しいテクノロジーの使用を加速することに対する顧客の期待が高まっていると感じています。
出典:https://www.ibm.com/jp-ja/think/insights/customer-service-future
Manual invoice processing results in expenses associated with labour, document handling, and warehousing. These costs can be cut by up to 67% with automation. This results in significant savings, from which other important company sectors could benefit.
出典:https://packagex.io/blog/automated-invoice-processing
訳:手動での請求書処理には、人件費、書類管理費、倉庫管理費などの費用が発生します。これらのコストは、自動化により最大67%削減可能です。これにより、大幅なコスト削減が実現し、その恩恵は他の重要な事業部門にも及ぶ可能性があります。
これまで人手を要していた定型的なデジタル処理の多くが代替可能になった今、こうした業務領域の見直しは、今後のキャリア戦略を考える上でも重要な視点といえます。
AIに仕事を奪われる可能性が低い仕事
AIの進化が進んでいる現在でも、代替が難しい仕事は依然として存在します。
代表的な例が、介護・看護・保育などのケア系職種です。
これらは「身体的な接触」「感情の理解」「状況に応じた柔軟な判断」といった要素が不可欠であり、OECDも自動化が困難な典型例として挙げています。

Community & Social Service(介護・保育・看護などケア系)
また、世界経済フォーラム(WEF)も、看護専門職や個人ケアアシスタントを2030年までの成長職種と位置づけています。
Frontline job roles are predicted to see the largest growth in absolute terms of volume and include Farmworkers, Delivery Drivers,Construction Workers, Salespersons, and Food Processing Workers. Care economy jobs, such as Nursing Professionals, Social Work and Counselling Professionals and Personal Care Aides are also expected to grow significantly over the next five years, alongside Education roles such as Tertiary and Secondary Education Teachers.
訳:最前線の職種は、絶対的な規模で最も大きな成長が見込まれており、農業従事者、配達ドライバー、建設作業員、販売員、食品加工作業員などが含まれます。介護関連職種(看護職員、社会福祉・カウンセリング職員、個人介護補助員など)も、今後5年間で大幅に増加すると予想されており、教育関連職種(大学・専門学校教員、中学校・高等学校教員など)も同様の傾向を示す見込みです。
出典:https://reports.weforum.org/docs/WEF_Future_of_Jobs_Report_2025.pdf
現場対応が求められる技術職や、顧客との交渉が中心となる営業・コンサルティングも、AIによる代替が難しい分野です。
ただし、初期問い合わせへの対応や資料作成など、標準化しやすい業務については、生成AIが担う場面が増えています。
つまり、AIに代替されにくい仕事とは、①高度な判断力、②身体性、③深い対話力のいずれかにおいて「人間らしさ」が不可欠な職種であると言えます。
詳細は以下の記事をご覧ください。

AIに仕事を奪われる可能性が高い仕事の共通点
「AIに仕事を奪われる可能性が高い仕事」とは、特定の職種そのものというよりも、AIによる代替が容易なタスクに共通点があります。
その主な特徴は、以下になります。
- 反復的かつルールベースである
- 入力が構造化データで管理されている
- 遠隔で実行でき、判断コストが低い
たとえば、データ入力、請求書のチェック、一次対応のコールセンター業務、コードリファクタリングの初期生成などが該当します。
OECDによると、全雇用の約27%がこうした高リスク業務に該当し、IMFも先進国の労働人口の約40%がAIの影響を受ける可能性があると指摘しています(OECD 2023/IMF 2024)。
Taking the effect of AI into account, occupations at highest risk of automation account for about 27% of employment.
訳:AIの影響を考慮すると、自動化リスクが最も高い職業は雇用全体の約27%を占めています。
出典:OECD Employment Outlook 2023
The findings are striking: almost 40 percent of global employment is exposed to AI.
訳:調査結果は驚くべきものだ。世界の雇用のおよそ40%がAIの影響を受ける可能性がある。
出典:https://www.imf.org/en/Blogs/Articles/2024/01/14/ai-will-transform-the-global-economy-lets-make-sure-it-benefits-humanity
まずは、自身の業務を細分化し、どのタスクが自動化の対象となり得るかを棚卸しすることが、AI時代のキャリア戦略の第一歩と言えます。
AIに奪われた仕事の一覧と事例を海外・日本から紹介

AIによって仕事が奪われるという議論が広がるなか、実際にAIに仕事を奪われてしまった例はどの程度存在するのでしょうか。
海外および日本の具体的な事例を踏まえて分析すると、完全な職種の消失ではなく、業務タスクの再構成が着実に進んでいる実情が浮かび上がります。
海外で実際にあった「AIに仕事を奪われた」ケース
海外では、AI導入によって一部業務がAIに置き換わり、実際に人員削減が進んでいます。
スウェーデンのフィンテック企業Klarnaは2023年、OpenAI技術を搭載したチャットボットを導入し、カスタマーサービス部門の約700人分の業務をAIで代替しました。
その結果、同部門の人員は5,500人から3,000人へと大幅に削減されましたが、サービス品質の低下が指摘されたため、一部再雇用も行われています。
Siemiatkowski, who has long been candid about his belief that AI will come for human jobs, added that AI had played a key role in “efficiency gains” at Klarna and that the firm’s workforce had shrunk from about 5,500 to 3,000 people in the last two years as a result.
訳:シエミャトコフスキー氏は、AIが人間の仕事を奪うと長年公言してきた人物だが、AIがクラルナにおける「効率化」に重要な役割を果たしたと付け加えた。その結果、同社の従業員数は過去2年間で約5,500人から3,000人まで減少した。
出典:https://www.businessinsider.com/klarna-ceo-ai-may-cause-recession-white-collar-jobs-threat-2025-6
However, Siemiatkowski has since dialed back his all-in stance on AI, telling an audience at the firm’s Stockholm headquarters in May that his AI-driven customer service cost-cutting efforts had gone too far and that Klarna was planning to now recruit, according to Bloomberg.
訳:しかし、シエミャトコフスキはその後、AIへの全面的な依存姿勢を後退させ、5月に同社のストックホルム本社での講演で、AIを活用したカスタマーサービスコスト削減が過剰だったと述べ、クラルナが現在採用を再開する計画だとブルームバーグが報じました。
出典:https://www.businessinsider.com/klarna-ceo-ai-may-cause-recession-white-collar-jobs-threat-2025-6
また、Resume Builderの調査では、生成AIを導入した企業の48%が人員削減を実施したと報告されています。
48% of companies using ChatGPT say it’s replaced workers
出典元:https://www.resumebuilder.com/1-in-4-companies-have-already-replaced-workers-with-chatgpt/
訳:ChatGPTを利用している企業の48%が、それが従業員を置き換えたと述べています。
さらに、Revelio Labsのデータによれば、2025年2月のWARN法による解雇通知件数は前月比で7.4%増加しました。

IBMは、バックオフィス業務においてAIが約7,800件の役割を代替できる可能性があるとし、当面の間、新規採用を凍結する方針を発表しています。
International Business Machines Corp (IBM.N), opens new tab expects to pause hiring for roles as roughly 7,800 jobs could be replaced by Artificial Intelligence (AI) in the coming years, CEO Arvind Krishna told Bloomberg News on Monday.
訳:国際ビジネス・マシンズ・コーポレーション(IBM.N)は、今後数年間で人工知能(AI)によって約7,800の職が置き換えられる可能性があるため、採用を一時停止する見込みだと、CEOのアルヴィン・クシュナ氏が月曜日にブルームバーグ・ニュースに述べた。
出典:https://www.reuters.com/technology/ibm-pause-hiring-plans-replace-7800-jobs-with-ai-bloomberg-news-2023-05-01/
これらの事例はいずれも、職種全体の消失ではなく、主に「定型的なデジタル作業」「大量データ処理」「遠隔実行可能なタスク」に限定したAIによる置換が進行していることを示しています。
日本企業で見られる一部業務のAI置換事例
国内でも、生成AIによる業務タスクの自動化が徐々に進行しています。
日本企業の事例を見ると、AIが直接的に人員を削減するケースは限定的であり、多くは特定のタスクを対象とした自動化・再編成にとどまっています。
具体的な導入事例を確認することで、その動向がより明確に把握できます。
みずほ銀行はNTTデータと共同で、法人営業部門に生成AIを導入し、顧客提案資料や社内報告書の要約をAIが担う体制を構築しました。
このAIは、NTT独自の日本語LLM「tsuzumi®」を、みずほ銀行向けにカスタマイズしたものです。
生成AI技術を活用した法人営業の効率化と高度化を目指し、NTT版大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi®」を基盤とした「〈みずほ〉特化型モデル」の開発に向けた共同研究契約を締結しました。
出典:https://www.nttdata.com/global/ja/news/topics/2024/121801/
大和証券では、IR資料を日本語と同時に英語でも出すというときに、英語版を出す労力が軽減されました。
DeepLの導入により、外部業者への翻訳委託を廃止し、社内での対応が可能となりました。
これにより、コスト削減と業務負担の軽減を実現しています。
DeepLを利用する前は、外部業者に委託するケースもありましたが、DeepLの導入により内製化できるようになり、費用削減も含めた作業負担が軽減されるようになったと聞いています。
出典:https://www.deepl.com/ja/blog/customer-interview-daiwa-securities
日本経済新聞社が展開する「決算サマリー」も、決算短信をAIで自動要約し、電子版へ即時配信する仕組みを採用しています。
2017年から運用を開始し、生成AIの進化により精度と実用性が向上しています。
AIを活用した「決算サマリー」配信スタート 完全自動で決算の要点をまとめ、「日経電子版」「日経テレコン」に
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000036.000011115.html
これらの事例からも明らかなように、国内企業におけるAI導入は、職種全体を置き換えるのではなく、業務プロセスの中で特定タスクの再設計・再配置を進める形で進行しています。
「職種ごと消滅」は誤解、実際はタスクの再編が進行中
AI導入の影響として「職種自体が消滅する」といった印象が先行しがちですが、実際には業務タスク単位での再編が中心となっています。
現時点で完全に消滅した職種はなく、多くの場合、定型的な作業やデジタル処理など特定のタスクがAIに置き換えられている状況です。
たとえば、カスタマーサポートやバックオフィス、記事校正、翻訳業務などの分野では、AIによる自動化が進み、人が担っていた業務の一部がAIに代替されています。
その結果、担当者には新たな役割やスキルが求められるようになり、より高付加価値な業務へのシフトが進んでいます。
今後も、こうしたタスク単位での再編はさまざまな業種・職種に広がっていくと見込まれます。
AIが担う領域が拡大する中、企業には既存業務や人員配置の見直しを進め、生産性向上や競争力強化につなげていくことが求められます。
AIに奪われた仕事に備えるために必要なスキルとキャリア対策

「AIに奪われた仕事」というテーマが関心を集める中、個人がキャリアを維持・発展させるためには、新たなスキルの習得と継続的なリスキリングが不可欠です。
本セクションでは、今後の変化に対応するために求められる実践的な対策について解説します。
AI時代でも強みとなる「共存型スキル」3選
AIによる業務代替が進展する中、個人に求められるスキルは“AIと共に働く”ことを前提に変化しています。
まず重視されるのは、プロンプト設計をはじめとしたAIツール活用力です。
昨今では、業種や職種を問わずAIリテラシーが基礎スキルとみなされつつあり、業務効率化や生産性向上を目的としたAI活用の幅が広がっています。
加えて、批判的思考力や創造的思考力も重要です。
AIには対応が難しい課題設定や意思決定、新たな価値の創出といった分野では、人間固有の能力が引き続き求められます。
また、AIの技術と現場業務を結び付ける翻訳力「Bridging力」も今後のキャリア構築における重要な要素です。
技術的知見と業務理解の双方を兼ね備えた人材は、組織におけるAI導入・活用を推進するうえで不可欠な存在となっています。
まずは日常業務の中でAIツールを積極的に試し、自身の業務との接点や活用可能性を探ることから始めてはいかがでしょうか。
学び直しにかかる時間と費用の目安とは?
AI時代に向けてリスキリングを検討する際、「実際にどれだけの時間や費用が必要なのか?」と疑問を持つ方は少なくありません。
しかし近年は、学び直しのコストや期間が現実的な水準に収まりつつあり、以前よりハードルは確実に下がっています。
背景として、オンライン講座や公的支援など、学習の選択肢が大きく広がったことが挙げられます。
例えばUdemyでは、AI関連講座が1講座数千円から受講でき、平均学習時間は40〜60時間程度とされています。
Courseraの「Chatgptのためのプロンプト・エンジニアリング」なども18時間ほどで修了でき、無料で学べるコースも増加中です。
具体的な学び直しの進め方として、90日間のロードマップ例を以下に示します。
- 基礎知識の習得(30日)
- 小規模な実証実験(30日)
- 現場での実務実装(30日)
たとえば、「業務処理時間を20%短縮」「バグ報告件数を15%減」など、成果が可視化できるKPIを設定すれば、リスキリングの効果もより実感しやすくなります。
このように、リスキリングは多額の資金や長期の休職を必要とするものではありません。
明確な目的意識と、短期間で実務に直結する計画を持てば、十分に現実的な選択肢となります。
まずは、関心のあるAI講座を選び、週2~3回の受講スケジュールを立ててみることから始めてみてはいかがでしょうか。
キャリアの柔軟性を高めるセルフチェックリスト
AIに奪われる仕事への備えとして、まず自身のキャリアの柔軟性を客観的に把握することが重要です。
現在のスキルや行動を可視化するために、以下の10項目のセルフチェックを活用してください。
合計点が7点未満の場合は、学習計画の見直しを推奨します。
- 業務をタスク単位で分解できている
- 反復的・定型作業を棚卸ししている
- 新しいAIツールを月1回以上試している
- 月に10時間以上を学び直しに投資している
- 社外の同業者ネットワークがある
- 社内外でリスキリング事例を情報収集している
- 自分の強みや専門領域を再認識できている
- 失敗経験や変化を受け入れやすい
- 上司・同僚と業務分担の見直しができる
- 将来像を半年ごとにアップデートしている
まずは上記のリストで現状を確認し、弱点となる項目を特定することから始めましょう。
課題が明確になれば、具体的な改善策も立てやすくなります。
自己棚卸しはリスキリングやキャリア形成の第一歩です。
定期的にセルフチェックを行い、自身の成長に繋げていくことをお勧めします。
リスキリングに使える日本の公的支援制度まとめ
リスキリングは自己負担が大きいという印象がありますが、実際には公的支援の活用により、費用や賃金の負担を大幅に軽減することが可能です。
国の「人への投資」強化に伴い、2025年以降は各種制度の補助額や適用範囲が拡充されています。
企業向けには「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」があります。
中小企業であれば訓練費の75%、賃金についても1時間あたり960円まで補助されます。(大企業はそれぞれ60%・480円/時間)
個人向けには「専門実践教育訓練給付金」が設けられています。
受講費の50%(上限40万円/年)が支給され、修了後1年以内に資格取得と就職が成立した場合は70%(上限56万円/年)、賃上げ5%超の場合は最大80%(上限64万円/年)まで拡充されます。
さらに、経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」では、教育事業者に対する補助金交付により、個人がキャリア相談・講座・転職支援を無料で利用できます。
主な公的リスキリング支援制度を以下にまとめました。
制度名 | 対象 | 補助率・給付額 | 上限額 |
---|---|---|---|
人材開発支援助成金 | 企業 | 訓練費:中小企業75%・大企業60% 賃金:中小企業960円/時間・大企業480円/時間 | 20~150万円/人 (訓練時間による) |
専門実践教育訓練給付金 | 個人 | 受講費:50% 条件達成で最大80% | 最大64万円/年 (最大3年) |
キャリアアップ支援事業 | 教育事業者 (個人は無料受講) | 個人はキャリア相談・講座・転職支援が無料 | — |
公的支援制度を利用する場合は、受講内容が対象かどうか確認しましょう。
AIに奪われた仕事「全滅説」の誤解をデータで検証する

「AIに奪われた仕事 全滅説」がSNSや一部メディアで繰り返し話題になっています。
「AIのせいでほとんどの仕事がなくなる」という説を目にすることが増えましたが、結論を先に言うと、「全滅」という予想は公的データが明確に否定しています。
例えば「80%の職業が消える」といった見出しや、著名経営者による「エントリー職の半分が消える」といった発言も出ています。
しかし、OECDが2023年に行った調査によれば、自動化リスクが特に高い職種は全体の27%に過ぎません。
またIMFの2024年レポートでも、先進国で60%の職業が生成AIなどによる影響を受けているものの、その半分は「補完的な恩恵」を受けるとされています。
On average across OECD countries in the sample, the occupations at the highest risk of automation
account for 27% of employment .
訳:OECD加盟国全体の平均では、自動化リスクが最も高い職業は雇用全体の27%を占めています
出典:https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2023/07/oecd-employment-outlook-2023_904bcef3/08785bba-en.pdf
In advanced economies, about 60 percent of jobs may be impacted by AI. Roughly half the exposed jobs may benefit from AI integration, enhancing productivity.
訳:先進国では、約60%の雇用がAIの影響を受ける可能性があります。影響を受ける雇用の約半数は、AIの統合により生産性が向上する可能性があります。
出典:https://www.imf.org/en/Blogs/Articles/2024/01/14/ai-will-transform-the-global-economy-lets-make-sure-it-benefits-humanity
「仕事」という大きな単位で見るのではなく、各職種の「タスク」ごとにAIがどこまで関われるかを見極めることが必要です。
また、最近は「AIの影響で大量レイオフがすでに起きている」と煽るニュースも目立っています。
しかし、実際には2025年2月のRevelio Labsのデータで、AI関連の解雇は全体で7.4%増にとどまっています([Revelio Labs][3])。
7.4% increase in the number of employees notified of layoffs under the WARN Act compared to December 2024.
訳:WARN法に基づき解雇通知を受けた従業員の数が、2024年12月と比較して7.4%増加しました。
出典:https://www.reveliolabs.com/news/workforce-digest/workforce-digest-february-2025/
AIを全業務に完全導入している企業は今のところ少数ですし、導入コストや精度の壁、さらには法規制もあり、一足飛びの自動化には至っていません。
さらに、「AIが雇用全体を純減させる」という主張も根強いですが、WEFの『Future of Jobs Report 2025』は、2025年から2030年の間に1億7,000万件の新しい職が生まれる一方で、9,200万件の職がなくなると推計しています。
This is expected to entail the creation of new jobs equivalent to 14% of today’s total employment, amounting to 170 million jobs.However, this growth is expected to be offset by the displacement of the equivalent of 8% (or 92 million) of current jobs, resulting in net growth of 7% of total employment, or 78 million jobs.
訳:これは、現在の総雇用数の14%に相当する新たな雇用創出を伴うと予想されており、その数は1億7,000万件に上る見込みです。ただし、この成長は、現在の雇用の8%(9,200万件)に相当する雇用の置き換えによって相殺されると予想され、結果として総雇用の7%(7,800万件)の純増となる見込みです。
出典:https://reports.weforum.org/docs/WEF_Future_of_Jobs_Report_2025.pdf
つまり、AIやビッグデータ、クリエイティブ思考といった分野では新たなスキルへの需要が高まり、必ずしも職が減る一方ではないのです。
まずは自分の業務を細かく分解し、「AIで置き換えやすいタスク」がどこにあるかを把握してみてください。
まとめ
AIによる仕事の消失が話題となるなか、現時点で「完全に消滅した職種」が公式に確認された例はありません。
統計データや各種企業調査でも、AIの活用範囲は主に定型的なタスクや業務プロセスの一部にとどまっており、人間による判断や対人対応といった領域は依然として高い価値を持ち続けています。
もっとも、タスク単位での自動化や業務の再編が着実に進んでいるのは事実です。
今後は、不安や風評に振り回されるのではなく、自らの業務内容を冷静に見直し、リスキリングやAIと共存するためのスキル習得を計画的に進めることが求められます。
公的支援策も活用しつつ、信頼できるデータや根拠に基づき、前向きなキャリア形成に取り組みましょう。