OpenAIがこのタイミングでGPT-4.5を出した本当の目的とは

AIメディアを運営する男性2人が”ながら聞きでも未来がわかる”をテーマに30分で生成AIのトレンドを解説するPodcast「AI未来話」。

このnoteでは番組のエピソードからトピックをピックアップして再構成したものをお届けします。

今回は「OpenAIがこのタイミングでGPT-4.5を出した本当の目的とは」を再構成した内容をお届けします。

目次

GPT-4.5登場、その背景と目的

GPT-4.5の突然のリリース、その真意は?

2024年2月末、OpenAIは新モデル「GPT-4.5」をリリースしました。

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OpenAI、新モデル「GPT-4.5」を発表 感情知能を強化し人間らしい会話を実現 米OpenAIは最新の大規模言語モデル「GPT-4.5」を発表しました。 GPT-4.5は、最近リリースされている「o1」や「o3」のような推論特化型モデルとは異なり、教師なし学習(unsupervised learning)を大幅に拡張することで、世界に関する幅広い知識や直感的な理解を向上させたモデルです。

CEOのサム・アルトマン氏は、X(旧Twitter)で数週間以内にGPT-4.5を、数ヶ月以内にGPT-5をリリースすると予告しており、今回はそのロードマップ通りに珍しくスムーズな登場となりました。

私たちがまず気になったのは、GPT-5が数ヶ月後に控えているにもかかわらず、なぜわざわざこのタイミングでGPT-4.5を出したのかという点です。

その答えを深掘りしていくと、OpenAIの戦略が明確に見えてきました。

GPT-5に向けた「プロトタイプ」としてのGPT-4.5

GPT-5はこれまで別々に開発されてきたGPTシリーズと推論モデルのOシリーズを統合するモデルです。

アルトマン氏によれば、「モデル選択なしで魔法のように使えるAI」を目指しています。

しかし、この統合にあたって、GPT-4.5は事前トレーニングで性能を高める「プロトタイプ」としての位置付けがあると私たちは考えています。

実際、公式ヘルプでも「GPT-4.5を研究プレビューとして共有し、その能力と限界をより理解したい」と記載されています。

GPT-4.5 は、その長所と限界をより深く理解するための研究プレビューとして公開されています。私たちはまだその可能性を探っている最中で、人々が予想もしなかった方法でそれを使用する様子を見るのが楽しみです。

出典:Introducing GPT-4.5 | OpenAI

これはつまり、ユーザーに広く使ってもらうことでフィードバックを収集し、その結果をGPT-5開発に反映させる狙いがあると見ています。

しかし、なぜ今急いでフィードバックの収集をしなければいけないのか、、、この記事で考察していきます。

GPT-4.5の特徴!世界知識と感情知能(EQ)

世界知識の劇的な向上

GPT-4.5の最大の特徴は「世界知識」の幅広さです。

OpenAIは教師なし学習のスケーリングを強化し、膨大なデータを事前学習させました。

具体的なパラメータ数は公開されていませんが、GPT-4が推定約1兆パラメータと言われている中で、GPT-4.5は10倍に達する約12.8兆パラメータとも報じられています。

GPT‑4.5は、驚異の12.8兆パラメータと128kトークンのコンテキストウィンドウで構築されており、これまで以上に深いコンテキスト理解と人間のようなインタラクションを提供します。

出典:GPT 4.5 APIの価格は狂っている: 本当にそれだけの価値があるのか?

その結果、GPT-4.5は幅広いトピックにおいて高い精度を発揮し、幻覚(ハルシネーション)が起こりにくくなりました。

具体的に指標を見てみると、「シンプルQA」(単純だが難しい質問への精度)でGPT-4.5は62.5%と非常に高い数字を記録しています。

幻覚率も従来モデルに比べ大幅に改善され、37.1%まで低下しています。

出典:Introducing GPT-4.5 | OpenAI

これにより、企業が重要な業務で使う際にも高い信頼性を提供できるのではないでしょうか。

「感情知能(EQ)」による人間味ある対応

もう一つの特徴である「感情知能(EQ)」は、ユーザーの微妙な感情を正確に理解し、共感的なコミュニケーションを可能にしています。

例えば、ユーザーが試験に落ちて辛いと伝えると、GPT-4.5は単に解決策を提示するだけではなく、「それは辛いですね」と共感を示すなど、自然な人間らしい対応を行います。

出典:Introducing GPT-4.5 | OpenAI

実際に私たち自身も使ってみて、この感情面での優れた性能を実感しています。

X上でもGPT-4.5をまるで友達のようだと評価する声が多く見られるのは、このEQの高さが理由でしょう。

ベンチマークを超えた評価基準

数字で測れないGPT-4.5の実力

GPT-4.5の性能を各種ベンチマークだけで見ると、GPT-4やOシリーズに比べて大きな飛躍は見られません。

しかし、私たちはベンチマークだけで評価するのは不十分だと考えています。

特に感情知能(EQ)に関しては既存のベンチマークが存在せず、数値化できない部分での進化が大きいのです。

OpenAIのサム・アルトマンCEO自身も、「GPT-4.5は初めて思慮深い人と話しているようなAIだ」と述べています。

つまり、従来のベンチマークでは測定できない、全く新しいタイプの知能を持つAIとして捉えるべきなのです。

企業利用での高評価の声

クラウドストレージ大手のBox社は、GPT-4.5はミッションクリティカルな場面で特に威力を発揮すると評価しています。

ミッションクリティカルとは、企業にとって特に重要で絶対に失敗や間違いが許されない場面を指し、金融取引、医療診断、航空管制、法的な判断、重要な契約書作成など、一つのミスが大きな損害やリスクにつながるような場合です。

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こうした企業での利用事例を見ても、GPT-4.5はエンタープライズ向けのチャットボットとして今後さらに重要な位置を占める可能性があります。

GPT-4.5と推論モデルOシリーズはまるで人間の頭脳のような関係

GPT-4.5と推論モデルOシリーズの使い分け

GPT-4.5と推論特化型のOシリーズは、実務レベルにおいて明確な役割の違いがあります。

GPT-4.5は、会話やメールの返信文作成など、ユーザーとの感情的なコミュニケーションを重視する場面で非常に有効です。

例えば、簡単なタスクや、相手の気持ちに寄り添った自然な対話を行うようなシチュエーションではGPT-4.5がその力を発揮します。

一方、推論モデルのOシリーズは、複雑な資料作成や議事録作成、与えられたデータを基に正確な判断を導き出す場面で威力を発揮します。

Oシリーズは「データをもとにした論理的な推論」に特化しており、感情的要素よりも理性的な判断を必要とする業務に適しています。

つまり、タスクが複雑になればなるほど、Oシリーズが有効だということです。

実際のところ、企業で求められる作業の多くは、具体的なデータや根拠に基づくものがほとんどです。

そのため、現在の実務シーンではまだ推論モデルOシリーズの方が実用性は高いと私たちは考えています。

GPT-4.5が右脳でOシリーズが左脳

推論モデルOシリーズとGPT-4.5を脳の役割に例えると、まるで「右脳と左脳」の関係に近いと私たちは感じています。

この表現は、X(旧Twitter)でAI研究者の落合陽一氏が投稿した内容に由来しています。

右脳は感情、直感、創造性を司り、左脳は論理、分析、言語能力を担当します。

この視点で見ると、GPT-4.5はまさに右脳の役割を果たし、ユーザーの感情に共感したり、直感的な応答を行ったりする能力に優れています。

一方、Oシリーズは、徹底したデータ分析や論理的な推論という左脳的な役割を果たしています。

つまり、この2つのモデルを適切に使い分けることが、現在のAI活用において非常に重要になっているのです。

例えば、Oシリーズがデータを分析し、最も正確な答えを導き出した後に、その内容をGPT-4.5が人間らしい温かみのあるコミュニケーションとして提供することで、非常に高品質なユーザー体験を実現できるようになります。

GPT-4.5をこのタイミングでリリースしたのはGPT-5に向けたOpenAIの戦略

私たちが考えるOpenAIがこのタイミングでGPT-4.5をリリースした理由は、もともとGPT-4.5はGPT-5としてリリースされるはずだったモデルであるという背景が関係しています。

OpenAIの元従業員によれば、GPT-4の約10倍に相当する約12.8兆のパラメーターを学習させることで、大きな飛躍(ブレイクスルー)が実現できると期待されていました。

しかし実際には、この膨大な学習を行っても期待されたほどの劇的な性能向上が得られず、結果的にGPT-5と呼べるほどの飛躍には至らなかったという経緯があるのです。

OpenAI の元従業員 2 名は、GPT-4.5 はもともと、より急進的な飛躍 (GPT-5 と呼ばれていたもの) となる予定だったが、期待されたブレークスルーを実現するには至らなかったと示唆している。

出典:GPT-4.5 Scores EQ Points, but Not Much Else – BankInfoSecurity

しかしOpenAIはここ最近、GPT-4.5を基盤としてさまざまな推論ツールやDeep researchを組み合わせることで、真のGPT-5に近づける可能性に気付いたと私たちは推測しています。

そこで、早期にGPT-4.5を市場に投入し、ユーザーに広く使用してもらうことで、急いでフィードバックを収集しなければGPT-5の開発スケジュールに間に合わないと判断したのだと思います。

実際、GPT-4.5のトレーニングデータのカットオフが2023年10月というのもタイミング的に興味深く、同時期にはサム・アルトマンCEOの解任騒動などもありました。

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2023年10月頃にはすでにGPT-5になれなかった現在のGPT-4.5が手元にあり、そんな中で推論モデルのOシリーズが2024年9月に発表され、12月に正式リリースされたわけです。

この時系列で考えると、推論モデルの登場をきっかけにGPT-4.5を基盤にすることを思いつき、2025年の年明けタイミングで急遽GPT-4.5を投入するという決断に至ったと考えるのが自然です。

つまり、このタイミングでGPT-4.5が登場した背景には、感情に特化した右脳型モデル(GPT-4.5)と論理的推論に特化した左脳型モデル(Oシリーズ)を組み合わせることで、次世代のGPT-5を完成させるための重要なデータ収集とフィードバック獲得の目的があるということです。

まとめ

今回は、OpenAIがこのタイミングでGPT-4.5を投入した真の狙いについて深掘りしました。GPT-4.5は世界知識と感情知能に特化したモデルであり、特にその「EQ」において新しい次元のAIコミュニケーションを可能にしました。

私たち自身も実際にGPT-4.5を使ってみて、確かに従来のモデルにはない共感性や人間味を感じました。ただし、APIの料金が非常に高額であるため、現状では実用的にはチャットUIを通しての利用が中心となりそうです。

今後、推論に特化したOシリーズとの連携が進むことで、より強力なマルチエージェントAI、すなわち「GPT-5」へと進化していくことが期待されます。

GPT-4.5を活用したフィードバックが次世代モデルに反映される可能性が高いため、私たちも意識して積極的に使い、試していきたいと考えています。

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