
OpenAIは2025年3月、AIエージェント開発をより簡単に効率的にする環境としてOpenAI Agents SDKとResponses APIをリリースしました。
このうち、OpenAI Agents SDKはオープンソースのAIエージェント用のソフトウェア開発キットです。
複雑な連携ロジックを抽象化し、ツール呼び出しや複数エージェントの協調を容易にし、Responses APIを基盤としてより高度なエージェントの構築を支援します。
2024年に試験的に提供されたAIエージェント用フレームワークswarmの発展版となっており、AIマルチエージェントを簡単に自分のアプリに組み込むことも可能です。
本記事では、OpenAI Agents SDKの概要や特徴、使い方、Responses APIとの違いをわかりやすく解説します。
OpenAI Agents SDKとは?OpenAIのAIエージェント開発キット

OpenAI Agents SDKは、OpenAIが提供するオープンソースのAIエージェント用のソフトウェア開発キット(Software Development Kit)です。
2024年に試験提供されたAIエージェント用フレームワークswarmの発展版となっており、AIエージェントを簡単に自分のアプリに組み込むことができます。
本章では、OpenAI Agents SDKの概要や特徴を、「SDKとは何か?」とあわせて、以下の3つの点からわかりやすく解説します。
- OpenAI Agents SDKの概要と目的
- OpenAI Agents SDKの特徴とメリット
- SDKとAPIの違い
それでは、順番に見ていきます。
OpenAI Agents SDKの概要と目的
OpenAI Agents SDKは、AIエージェントを構築するためのソフトウェア開発キットです。
OpenAIでは、ユーザーが自分のプログラムからChatGPTなどOpenAI製品を呼び出すための仕組みとしてAPIを公開して提供してきました。
API名 | 特徴 | 主なユースケース |
---|---|---|
Completion API | 単一出力 | 自由生成・作文 |
Chat Completion API | 会話形式 | チャットボット・質問応答 |
Function Calling | 構造化呼び出し | 外部API呼び出し |
Responses API | 会話形式+ツール組み込み+安全性 | エージェント内で組み込みツール利用可 |
しかし、複数のAIエージェントが協調してサービスを提供するといった複雑な仕組みのAIエージェントを開発するには、APIのみではプログラムも複雑化してしまい開発効率がよいとはいえません。
OpenAI Agents SDKは、そうした協調型のマルチAIエージェントアプリケーションを開発するための軽量で使いやすいフレームワークです。
OpenAI Agents SDKは、以下の3つのプリミティブを組み合わせることで、複数のAIエージェントが連携して動作するアプリケーションの開発を容易にするとしています。
- Agents(エージェント)
-
OpenAIが提供する各種モデルを指定して実行させます。指示(プロンプト)のほか、ツールを与えることもでき、LLMとしての回答生成に加え必要に応じてそれらのツールを自動で選択して実行可能です。
- Handoff(ハンドオフ)
-
指示(プロンプト)とツールを与えられたLLMです。各エージェントが特定のタスクや役割を担い、LLMとしての回答生成に加え必要に応じてツールを実行します
- Guardrail(ガードレール)
-
エージェントへの入力や出力に対する検証・制御機能です。不適切な入力がないかチェックしたり、エージェントの応答内容をバリデーションして品質を保証します
また、OpenAI Agents SDKはトレース機能を備えており、エージェントの動作履歴やツール呼び出しを可視化・分析するためのログ追跡機能が組み込まれています。
OpenAIの開発者用ダッシュボード上で各エージェントの実行フローを時系列で確認でき、不具合のデバッグや最適化に役立ちます。さらにこの履歴を使ったエージェント性能の評価やモデルの微調整にも対応しています
OpenAI Agents SDKの特徴とメリット
OpenAI Agents SDKは、単なるチャットアプリの開発ではなく、自律的に動作するAIエージェント構築を簡単に行えるフレームワークとなることを目指しているのが特徴です。
OpenAI Agents SDKを利用して開発することで、以下のようなことが可能になるのがメリットといえます。
- 複数ステップのタスク(例:質問→検索→回答)を自動で進められるようにする
- 複数のエージェント(サブエージェント)を定義し、ハンドオフで連携でき、状況やタスクに応じて動的に役割を切り替えられる
- Guardrailsにより、入力検証や外部API呼び出し、社内データ連携の安全性を強化可能
上記のようなことをサポートするために、OpenAI Agents SDKは以下のような機能を提供しています。
機能名 | 説明 |
---|---|
エージェント (Agent) | 指示とツールを備えたLLM(大規模言語モデル)で、特定のタスクを実行します。 |
ハンドオフ (Handoff) | エージェント間でタスクを委譲し、適切なエージェントが処理を引き継ぐ仕組みです。 |
ガードレール (Guardrail) | エージェントの入出力を検証し、安全性と品質を確保する機能です。 |
トレーシングとオブザーバビリティ | エージェントの実行状況を可視化し、デバッグやパフォーマンス最適化を支援します。 |
ツール (Tool) | エージェントが外部情報の取得や関数の実行を行うための拡張機能です。 |
ランナー (Runner) | エージェントを非同期で実行し、ワークフロー全体を管理するクラスです。 |
コンテキスト管理 | エージェント実行時の依存関係や状態を管理し、エージェント間で共有します。 |
出力タイプの設定 | エージェントの出力形式を指定し、構造化データを生成します。 |
イベントフック | エージェントやランナーのライフサイクルイベントに対してカスタム処理を挿入できます。 |
現時点では、OpenAI Agents SDKはPython言語のみをサポートしていますが、Node.js(JavaScript/TypeScript)もサポート予定となっています。
SDKとは?APIとの違いも解説
SDK(Software Development Kit)とは、ソフトウェアを開発するためのツール一式のことです。
ライブラリやサンプルコード、ドキュメントが含まれており、特定の機能をアプリに組み込む際に利用されます。
一方、API(Application Programming Interface)は、ソフトウェア同士のやりとりのルールを定義したインターフェースです。
項目 | SDK | API |
---|---|---|
主な役割 | 開発補助のためのツール群 | 他のサービスと連携するための窓口 |
構成 | コード、ツール、ドキュメント | エンドポイント、リクエスト/レスポンス形式 |
利用目的 | アプリ開発そのもの | 外部サービスとの通信 |
Agents SDKは、APIを活用するための土台を整える役割も果たしており、両者は相補的な存在です。
OpenAI Agents SDKの使い方:導入や開発フローも紹介

ここでは、OpenAI Agents SDKの使い方を以下の2点から説明します。
- OpenAI Agents SDKのインストールと初期設定
- OpenAI Agents SDKによる開発フローとステップ
また、OpenAI Agents SDKを使ったプログラムコード例も紹介します。
OpenAI Agents SDKのインストールと初期設定
OpenAI Agents SDKを使い始めるには、まず公式ドキュメントで案内されている手順に従い、SDKをインストールします。
たとえばPythonの場合、以下のようなコマンドでセットアップが可能です。
pip install openai
なお、OpenAI Agents SDKで作成したエージェントを実行するには、APIキーが必要なので、APIキーを取得して環境変数として設定しておくとよいでしょう。
export OPENAI_API_KEY="your-api-key"
初期設定が完了すると、Assistantインスタンスの作成や、対話ルールの設定ができるようになります。
OpenAI Agents SDKによる開発フローとステップ
Agents SDKを使ったAIエージェント開発は、以下のようなステップで進みます。
- Assistant(エージェント)の作成
- スレッドを開始して会話の履歴管理を開始
- ユーザーメッセージの送信
- ラン(Run)を実行し、エージェントによる応答生成。
エージェントでは、関数呼び出しやツール連携の設定も行えます。
たとえば、ユーザーが質問した内容に対し、外部ツールを使ってデータを取得し、それをもとに応答を生成することも可能です。
これらはすべてシンプルな関数で実現でき、API連携や計算処理、ファイルアップロードなどにも対応できます。
OpenAI Agents SDKのコード例:チャットエージェントを作ってみる
以下に、エージェントを作成するための簡単なPythonコードを紹介します(https://openai.github.io/openai-agents-python/quickstart/)。
エージェントは、指示、名前、およびオプションの設定(model_configなど)で定義されます
以下の例では、歴史と数学のエージェントを定義しています。
from agents import Agent
history_tutor_agent = Agent(
name="History Tutor",
handoff_description="Specialist agent for historical questions",
instructions="You provide assistance with historical queries. Explain important events and context clearly.",
)
agent = Agent(
name="Math Tutor",
instructions="You provide help with math problems. Explain your reasoning at each step and include examples",
)
以下のコードでは、ユーザーからのプロンプトに応じて、歴史と数学のエージェントを選択するためのハンドオフ オプションのインベントリを定義しています。
triage_agent = Agent(
name="Triage Agent",
instructions="You determine which agent to use based on the user's homework question",
handoffs=[history_tutor_agent, math_tutor_agent]
triageエージェントを実行するコードです。
from agents import Runner
async def main():
result = await Runner.run(triage_agent, "What is the capital of France?")
print(result.final_output)
OpenAI Agents SDKを使えば、歴史と数学のエージェントへの作業振り分けを人間がコードで記述することは不要です。
このように、シンプルな短いコードで複数のエージェントが連携するコードを作成し、対話ができるようになります。
OpenAI Agents SDKでできること?応用事例を紹介

OpenAI Agents SDKを利用することで、ユーザー側で自律的に動作するAIエージェントの開発を効率的に進めることが可能です。
ここでは、自律的に動作するAIエージェントの応用事例を以下の2点から紹介します。
- 業務支援やFAQボットへの応用
- 教育・学習支援サービスでの活用
では、細かく見ていきます。
業務支援やFAQボットへの応用
業務効率化の分野では、FAQボットとしての活用が代表的です。
企業のカスタマーサポートでは、よくある問い合わせに自動で応答することで、オペレーターの負担を軽減できます。さらに、社内向けのヘルプデスクAIとして、マニュアルの検索や業務プロセスの案内なども可能です。
以下のような用途が想定されます。
- 顧客対応の一次窓口(チャット対応)
- 社内Q&A対応やマニュアル検索
- データベース検索との連携によるナレッジ活用
教育・学習支援サービスでの活用
教育分野では、AIによる個別指導や学習支援への応用が期待されています。
たとえば、以下のような用途が想定されます。
- 語学学習の会話パートナー
- 学習進捗に応じた個別サポート
- コーディング学習におけるヒント提供やエラーチェック
OpenAI Agents SDKの料金体系とライセンス

ChatGPTをはじめ、OpenAIでは料金体系として従量制を採用しており、使ったトークンの分だけ料金を支払うことになりますが、OpenAI Agents SDKの料金体系はどうなっているのでしょうか。
また、OpenAI Agents SDKを使用して開発したエージェントの利用に何らかの制約があるかが気になります。
この章では、OpenAI Agents SDKの料金やライセンスについて、以下の2点から解説します。
- 料金プランの基本と無料利用の範囲
- 商用利用時の注意点とライセンスについて
料金プランの基本と無料利用の範囲
OpenAI Agents SDK自体はオープンソース(MITライセンス)としてリリースされており、OpenAI Agents SDKをダウンロードして開発に利用するのは無料です。
しかし、開発したエージェントでOpenAI Agents SDKの機能を利用した場合は、利用量に応じた料金が発生します。
具体的には、モデルと組み込みツールが動作した際にトークン数に応じた料金の支払いが必要です。
たとえば、日常的タスク向けGPTモデルの料金は以下のとおりです。
モデル | GPT-4.5 | GPT-4o | GPT-4o mini |
---|---|---|---|
入力 | $75.00 / 100万トークン | $2.50 / 100万トークン | $0.150 / 100万トークン |
キャッシュされた入力 | $37.50 / 100万トークン | $1.25 / 100万トークン | $0.075 / 100万トークン |
出力 | $150.00 / 100万トークン | $10.00 / 100万トークン | $0.600 / 100万トークン |
また、組み込みツールの料金体系は以下のとおりです。
ツール | コスト |
---|---|
Code Interpreter | $0.03/セッション |
ファイル検索ストレージ | 1GBあたり$0.10/日(最初の 1GB は無料) |
ファイル検索ツール | 1,000回あたり$2.50 |
Web 検索ツール | 実行1,000回あたり約$30〜$50(モデル種別と検索コンテキストサイズによって異なる) |
従量制なので、AIエージェントの開発・利用にあたっては、適切なモデルを使用して、不測の事態で無駄なコストが発生しないようにガードレールなどを使ってチェックすることが大切です。
商用利用時の注意点とライセンスについて
また、OpenAI Agents SDK自体はオープンソース(MITライセンス)なので、自社プロジェクトへの組み込みや商用サービスへの利用も自由に行うことができます。
ただし、OpenAIの利用規約を遵守して、禁止事項に該当しないように注意する必要があります。
気になる点は、OpenAI公式サイトの利用規約をチェックしてください。
OpenAI Agents SDKとResponses APIの違い

OpenAIは、OpenAI Agents SDKとあわせて、Responses APIという新しいAPIをリリースしました。
ここでは、OpenAI Agents SDKとResponses APIの関係を整理するため、以下の2点からResponses APIを解説します。
- Responses APIとは?
- OpenAI Agents SDKとResponses APIの違いと使い分け
Responses APIの概要
OpenAIのResponses APIは、2025年3月にOpenAI Agents SDKとともに発表された新しいAPIです。従来のChat Completions APIを拡張し、より複雑な対話やツール連携を容易にすることを狙いとしています。
主な特徴としては、以下の3点があげられます。
- マルチターン対話の簡略化
-
1回のAPI呼び出しで、複数回の質問応答や外部ツールの利用を含む複雑な対話を処理できます。会話の状態はAPI側で管理されるため、開発者は履歴管理の負担が軽減されます。
- 組み込みツールの統合
-
Web検索、ファイル検索、コードインタープリターなどのツールがAPIに統合されており、モデルが必要に応じて自動的にこれらのツールを呼び出し、回答の精度や実用性を向上させます。
- Chat Completions APIとの上位互換
-
シンプルな会話であればChat Completions APIと同様に利用でき、必要に応じてResponses APIの高度な機能を利用できます。
OpenAI Agents SDKとResponses APIの違いと使い分け
OpenAI Agents SDKとResponses APIともに、AIエージェント開発を念頭にリリースされていますが、両者の主な違いは以下の通りです。
比較項目 | Agents SDK | Responses API |
---|---|---|
利用形態 | AIエージェント開発用キット | クラウド上の単一APIコール |
ツール利用 | OpenAI純正ツールを組み込み可能 | OpenAI純正ツールのみ利用可能 |
マルチエージェント構成 | マルチエージェントによるオーケストレーションが可能 | シングルエージェントとして動作 |
対応言語・環境 | 2025年時点でPythonのみに対応、将来的にNode.jsにも対応予定 | HTTPベースで言語によらず呼び出し可能 |
したがって、ユーザーからの単発的な問合せへの応答などチャットボットにはResponses APIでも対応可能です。
継続的な対話や複雑な業務支援を可能とする自律的なAエージェント開発には、Agents SDKが向いているといえます。
統合利用の可能性と今後の展望
以下のように、Agents SDKとResponses APIの組み合わせによる「ハイブリッド活用」が検討されています。
- 最初の応答をResponses APIで生成し、その後の文脈保持はAgents SDKに引き継ぐ
- テキスト生成部分のみResponses APIを利用し、他の機能はSDKに任せる
OpenAIも両者の連携強化を視野に入れており、今後のアップデートでより統合的な開発環境が提供されることが期待されます。
Responses APIについては以下の記事で詳しく解説しています。

まとめ
OpenAI Agents SDKは、自律的なAIエージェントを開発するための便利なツールです。
ツール連携や会話履歴の保持といった機能により、実践的なAIエージェントを構築できます。
また、Responses APIとの違いを理解し、適切に使い分けることで、より効率的かつ柔軟なAIサービス開発が可能になります。