
AIメディアを運営する男性2人が“ながら聞きでも未来がわかる”をテーマに30分で生成AIのトレンドを解説するPodcast「AI未来話」。
番組のエピソードからトピックをピックアップして再構成したものをお届けします。今回は「AIでリモートワークは消滅する?ドロップインAIの衝撃」を再構成した内容をお届けします。

リモートワークは本当に消滅するのか
ここ数年、コロナ禍を機に急速に普及したリモートワークは、多くの人にとって「夢の働き方」のように語られてきました。
通勤電車に乗る必要がなく、自宅や地方から仕事をこなせる気楽さが魅力的だからです。
ところが最近「リモートワークは真っ先にAIに奪われるかもしれない」という議論が高まっています。
今回のトピックは、Claudeを開発するAnthropic社CEOのダリオ・アモデイ氏によるインタビューと、元OpenAI研究員のレオポルド・アッシェンブレナー氏が提唱する「drop-in remote worker(ドロップイン・リモートワーカー)」という概念です。
ダリオ・アモデイ氏の経歴と発言
実はAnthropic社のCEOであるダリオ・アモデイ(Dario Amodei)氏も元々OpenAIに在籍していたAI研究者です。
2020年頃にOpenAIを退職した後、安全性とスケーリング則に強いこだわりを持つ仲間と共にAnthropicを立ち上げ、大規模言語モデル「Claude」の開発をリードしています。
彼の考え方の特徴は「計算資源を十分に投入すればAIの性能は指数関数的に向上し、いずれあらゆる知的労働を超えるレベルに達する」というスケーリング至上主義とも呼べる視点です。
一方で、その急激な発展が社会にリスクをもたらす可能性も強く意識しており「AI開発は安全性の確保とセットで進めるべきだ」というメッセージを発信し続けています。
アモデイ氏は、2023年春頃にアメリカのシンクタンクであるCFR(Council on Foreign Relations)の場などで「人々はAIを十分に真剣視していないが、あと2年もすればそのリスクと恩恵に気づくだろう」 と語っていました。
彼自身はスケーリング至上主義的なバイアスを持つとも言えますが、AIによるリスクそのものは多くの専門家が認めるリアリティを帯びた論点です。
ドロップイン・リモートワーカーを提唱するレオポルド・アッシェンブレナー
元OpenAI研究員のレオポルド・アッシェンブレナー氏もAIのリスクに強く警鐘を鳴らしている人物です。
彼は長文エッセイ「Situational Awareness」の中で「drop-in remote worker(ドロップイン・リモートワーカー)」という概念を提唱しました。
アッシェンブレナー氏によれば、ドロップイン・リモートワーカーとは「会社の従来の業務フローを変えずに、AIエージェントをリモート社員のように追加(ドロップイン)できる」ことを指します。
つまり、あなたの会社に入社し、新入社員のようにオンボーディングされ、Slackであなたや同僚にメッセージを送り、あなたのソフトウェアを使い、プルリクエストを送信し、大規模なプロジェクトであれば、人間が数週間かけて独立してプロジェクトを完了させるのと同等のことをモデル上で実行できるエージェントです。これを実現するには、GPT-4よりも多少優れたベースモデルが必要になるでしょうが、おそらく
出典:I. From GPT-4 to AGI: Counting the OOMs – SITUATIONAL AWARENESS
それほど優れたモデルは必要ないかもしれません。
また、アッシェンブレナー氏はその初期段階で垣間見られるのが米国のAIスタートアップCognition社が開発したDevinとも言及しています。
これがどのようなものになるのか、ごく初期の段階で垣間見られるのがDevinです。これは、完全自動化ソフトウェアエンジニアの実現に向けたモデルにおける「エージェンシーオーバーハング」/「テスト時の計算オーバーハング」を解消する初期プロトタイプです。Devin が実際にどれほどうまく機能するかは分かりませんし、このデモは、チャットボットからエージェントへの本格的な移行によって得られる成果と比べるとまだ非常に限定的ですが、近々登場するようなものを垣間見ることができる有益なティーザーです。
出典:I. From GPT-4 to AGI: Counting the OOMs – SITUATIONAL AWARENESS

つまりアッシェンブレナー氏は、このドロップイン・リモートワーカーを単なる「チャットボット以上」の存在として描写しています。
先ほどのDevinしかり、最近ではGensparkからスーパーエージェントが登場したり、外部ツールやウェブ検索を自発的に行いながらタスクを継続する「自律型エージェント」はすでに兆しを見せており、今後「アンホブリング」(unhobbling)と呼ばれる更なる進化を経れば、リモートワーカーを代替できる業務遂行力を手に入れるのではないかと彼は予想しています。
※アンホブリングとは、AIモデルが元々持っている潜在的な高い能力を、従来の設計上の制限(=「縛り」)から解放して、より効果的に活かすためのアルゴリズム的・運用上の工夫

スケーリング則と巨額投資がもたらすもの
スケーリング則への賛否
AIの性能を左右するのが、計算資源やモデル規模を拡大するスケーリング則です。
ダリオ・アモデイ氏は「計算資源を投入し続ければAIの知能は指数関数的に上がる」という確信を持っていますが、一方でAAAIのレポートによると70%以上の研究者がスケーリングだけでは限界があると考えているという調査もあります。
実際、GPT-4からさらに10倍以上の投資をかけて開発されたGPT-4.5はユーザーからの評価がいまひとつで、期待したほど性能が伸びなかったとも言われます。
それでも今後数年に投じられる資金は、これまでと比べものにならないほど桁違いに大きい見込みであり、OpenAIやGoogleなどの莫大な投資が技術を大きく飛躍させると期待されています。
「スケーリングだけでは到達できない可能性がある」という意見もありますが、こうした投資の爆発的増加がブレイクスルーをもたらす可能性は十分にあると考えています。
1000倍のモデルが登場するシナリオ
近年、ソフトバンクとOpenAIの共同プロジェクト「Stargate」や、Amazonが原子力発電所に隣接した1ギガワット級のデータセンターを確保している動きなど、企業が数十億ドルから1000億ドル単位のAI開発を視野に入れはじめています。

これは従来とは次元の違う投資規模であり、専門家の間では「現行モデル(GPT-4)の1000倍規模の学習を行うAIが数年以内に登場しても不思議ではない」という見方が強まってきました。
さらに元OpenAIのレオポルド・アッシェンブレナー氏は「世界中のホワイトカラー労働者が毎年得ている給与総額は数十兆ドルにも上る。もしAIがその一部を代替できるなら、1兆ドル投資をしても回収できる」と言及しています。
オフィスで行う事務作業やソフトウェア開発など、リモートワークを中心とした知的労働を大規模に自動化できるのなら、それだけのコストをかける価値があるというわけです。
私たちも、このような莫大な資金が投入され始めている現状を考えると、ホワイトカラーの仕事を置き換えるAIの出現は確実に近づいているのではないかと感じています。
まとめ
リモートワークはコロナ禍で普及し、多くの人にとって当たり前の働き方になりました。
しかしAnthropicのダリオ・アモデイ氏やレオポルド・アッシェンブレナー氏の示唆するドロップインAIが進化すると、リモート業務こそAIが最も置き換えやすい領域になる可能性があります。
巨額投資によるモデルの大規模化で、2026~2027年には高度なエージェントが登場し、人間とチャットツールでやり取りしながら業務を担う未来が見えてきました。
それでも人間同士が築く関係性や、困難を乗り越えようとする意思を大切にし続けることが、私たちの存在価値を左右すると感じています。
社会的・倫理的な課題にも目を向けながら、リモートワークやホワイトカラーの在り方を今一度問い直す時期が訪れています。